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「小説現代」2020年9月号 [Book - Horror/SF/Mystery]

 真夏の怪談特集「超怖い物件」。
「小説現代」2020年9月号(講談社刊)

◆内容紹介
[特集]真夏の夜の悪夢 超怖い物件――そこに住んではイケない。
「こんな話は、頭で考えても作れない」執筆者の一人はこう語る―。土地に張り付いた怨念は消えない。実話怪談の怖さを味わえる最恐の十編。
大島てる 「倒福」/福澤徹三 「旧居の記憶」/糸柳寿昭 「あつまれ 怪談の日記」/宇佐美まこと 「氷室」/花房観音 「たかむらの家」/神永学 「妹の部屋」/澤村伊智 「笛を吹く家」/黒木あるじ 「牢家」/郷内心瞳 「トガハラミ」/平山夢明 「ろろるいの家」
・その他(略)

 ジャンル専門誌である二誌(『NightlLamd Quarterly』『幻想と怪奇』)を除くと、この手の小説誌を購入することはー今回のような怪談・ホラー特集以外はーほとんどない。が、今回はTwitterのタイムラインで流れて来たのを見て「おっ、これは!」……ということで、発売日の8/21に早速購入してきた。

 事故物件に住んだ芸人の体験談を基にしたホラー映画が公開され、同テーマのホラーアンソロジーが話題になったりと、ある意味では今夏の怪談・ホラーのトレンドにもなっていた「物件」ホラー。住む場所というものはどんな人間にとっても、どんな形であれ何らかの関りがあり、記憶があるものだから、そこに起こる怪異や恐怖、不思議な体験もまた身近に感じられるんだろう。もちろん、近年何かと話題に上る事故物件公示サイトの存在も大きいのだろうが(その管理人が今回寄稿している)。

 今号はこのテーマで10篇掲載。併せてシンガーソング・ライターの大塚愛による小説家デビュー作、しかもホラー短篇が掲載されているということで、こちらも。

倒福(大島てる) 
 2017年4月に起こった「大島てる」管理人殺害予告の脅迫事件。半年後に犯人は逮捕、罰金刑を受けている。その犯人の父親から管理人宛に届いた手紙の文面-という体裁。この事件や経緯は実話だが、この手紙に書かれていることは全て本当に犯人の父親が書いたのか、それとも実話に創作が混じっているのか……。

旧居の記憶(福澤徹三) 
 著者が幼い頃に両親、祖母と共に暮らした家と、家族の記憶。そこに(次に掲載されている)糸柳寿昭ら「怪談社」と共同執筆する『忌み地』の取材の模様が交互に挿入される。明るいばかりでない、暗く湿り気と黴臭さの混じる、それでいて仄暗い懐かしさを覚える記憶の中の「昭和」。

あつまれ 怪談の日記(糸柳寿昭) 
 6月に刊行された『忌み地 弐 怪談社奇聞録』(講談社文庫)の取材メモ。「本誌の掲載にあたっていくらか手を加えたが、大筋は原文と変わりない。」と本文にあるが……最後はある意味で予想を裏切らない。

氷室(宇佐美まこと )
 縁もゆかりもない瀬戸内海の寂れた港町に移住した主人公。この町出身の女性が町おこしとして空き家と移住希望者をつなぐプロジェクトを立ち上げ、その伝手で移ってきたのだった。元は船具屋だったという、彼が買った古民家の土間には床下には氷室があり……。地方の自治体では過疎が進み空き家が増えている、というのも現代らしい問題だった。

たかむらの家(花房観音)
 兄の再婚相手は私より若い「年下の義姉」だった。私の実家でもある、夫と二人で暮らすその家を、彼女は「こわいんです」と言う……。タイトルの"たかむら"が序盤過ぎで明らかになるが、それを知っている読者なら展開や結末も察しが付くかもしれない。この著者の短篇を久しぶりに読んだが、こういう話を書く人だったな、と。

妹の部屋(神永学)
 三ヶ月前に自殺した妹。死んだ場所が部屋ではなかったため事故物件にはならなかったが、解約し空にしたはずの部屋が妙なことになっている―と不動産会社の担当が連絡をしてきた。とりあえず家族が怖い。おかしいのは○○じゃなく……というパターンと思わせて意外なオチが。でもかなりの荒業。

笛を吹く家(澤村伊智) 
 親子三人での散歩の途中に見つけた家は「幽霊屋敷」との息子の言葉通りの家だった。夫婦はそれぞれ「笛吹」と表札のかかるその家が気にかかり始め、その家の事情を調べ始めるが。序盤から暗示される親子の歪さの輪郭がはっきりする時、タイトルや表札の意味が明らかになる。奇しくも今号の別の収録作の語り手の心境とシンクロしているような。

牢家(黒木あるじ) 
 東北のある山村。数十年を隔てて同地域で起こった三つの未解決事件。地域プロデューサーなる男を案内して共に現地に向かったフリーライターは、〈牢家〉という言葉を彼から聞く。怪談というよりは王道の和風怪物ホラー。

トガハラミ(郷内心瞳)
 魔物に取り憑かれ、恋人の肉を喰らって蔵に幽閉された姉。夜毎に果物を持ってこっそり姉を訪れる妹。妹にとっては姉は憧れであり唯一の相談相手だった。吸血鬼譚の変奏ものかと思いきや……。

ろろるいの家(平山夢明) 
 かつて実話怪談の取材をし、雑誌の掲載直前になって取材相手の女性と音信不通となったためボツになったある話。彼女から約10年ぶりに突然入った電話。お蔵入りになっていた話を掲載して欲しいという。それは彼女が学生時代、家庭教師のバイト先で体験した異様な話だった。平山氏の実話怪談を読むのは久しぶり。相変わらずの乾いた狂気とえげつなさ。下衆の勘繰りかもしれんが『残穢』から影響されてない?

開けちゃいけないんだよ(大塚 愛) 
 10歳のさゆりは夏になると祖母が独居する洋館に泊まりに行く。祖母も、その家も大好きだったが、その家には地下室があり、そこに置かれたアルミシートの大きな包みを除いて。中身を祖母に尋ねても教えてはくれず「開けちゃいけないんだよ」というだけだった。
 シンガーソングライター、大塚愛の小説家デビュー作(絵本は既に2冊上梓しているらしい)。この作品の前にインタビューも掲載されていたが、記憶にある彼女の曲とは(そもそも1、2曲の印象しかない)全く異なるイメージに少々驚かされた。作品自体は……うーん、その前の10篇と比較してしまうと、こちらはプロット、特に文章がWeb小説、あるいはかつてのケータイ小説みたいだなぁと。

 雑誌の特集というより、何やら書き下ろしアンソロジーを1冊読んだような満足感。この感じはかつてメディアファクトリー(後に角川文庫)で刊行されていた『怪談実話系』シリーズの感覚に似ている。もしあのシリーズが続いていて、今回のような「超怖い物件」がテーマだったとしたなら、こういう内容になったんじゃないだろうか、とも思ったり。何より、福澤徹三氏と平山夢明氏、両氏の書き下ろし怪談が久々に同時に読めるのがウレシイ。


 他の特集、ドラマの原作連載等はとりあえず保留。気が向いた時に読んでみようか。


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「怪獣生物学入門」 [Book - Public]

 テレビや映画の世界に登場する怪獣、モンスターを、形態進化生物学者が生物学的に大真面目に考察した1冊。

 ※4月読了、Twitterに投稿したものを再構成しています。

「怪獣生物学入門」倉谷滋著(インターナショナル新書刊)

◆内容紹介(表紙見返しから)
ゴジラ、ガメラ、マタンゴ、ドゴラ、『寄生獣』のパラサイトなどなど、怪獣たちは日本のSFを牽引し、最近では海外での評価も高まっている。その一方で、怪獣たちは荒唐無稽な作り物のように思われてはいないか。怪獣とはどのような生物なのか?その形態や劇中の設定、登場人物たちの台詞などを手がかりに、生物学的な視点で徹底的に考察していく。そこから見えてきたのは、科学とSFを繋ぐ新たな発見だった。


 怪獣を生物学的視点から考察する―というと、20年以上前にブームにもなった『空想科学読本』を想起しそうだが、こちらはガチの形態進化生物学者が怪獣映画への偏愛っぷりも込めて真面目に論じた1冊。

 恐竜と怪獣の違いは何か、ゴジラに通常兵器が無効な理由、ゴジラの生息場所と"地球空洞説"、シン・ゴジラの乱杭歯の理由、キングギドラの形態学といった話から、映画『マタンゴ』に登場するキノコ化した人間であるマタンゴ、『寄生獣』のミギー、東宝映画の宇宙怪獣ドゴラ(これ、ドイル『大空の恐怖』じゃないの!と思ったら言及されてた)といったものまで幅広く俎上に上げられている。

 怪獣映画で時折論じられる「スケール問題(あれだけ巨大化した生物は自重に耐えられず崩壊するという論)」については「進化の厳密なルール下にある生物が、環境や生体としてのキャパを無視して巨大化方向へ進化することはあり得ない」と断じ、怪獣映画にスケール問題を持ち出すこと自体の矛盾を指摘している点は面白い……が、山本弘のSF小説 『MM9』(創元SF文庫)シリーズで―作品世界において怪獣が出現する根拠としてー言及された"多重人間原理"についても触れてみてくれたらより面白かった、と思うのは欲張り過ぎか。

 終章はウルトラ怪獣から4つほど採り上げているが、この辺はちょっと駆け足気味かつ蛇足気味だったような気がしないでもない。

 何れにせよこういう、怪獣やモンスターといったホラ話を、形態進化生物学という学問に基づいて大真面目に考察するというのは、これも一つの知の遊戯という感じがしていて面白い。これは単に現実的には存在し得ない、荒唐無稽っぷりをあからさまに批判することを目的としたのではなく、著者本人がそういった存在が好きだったからこそ、怪獣への愛着がしっかりと現れているためだろう。



 ちなみに映画「シン・ゴジラ」、まだ観ていない(観るのか?

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「深層地下4階」 [Book - Horror/SF/Mystery]

「ジュラシック・パーク」「ミッション:インポッシブル」など、ハリウッドのヒット映画多数を手掛けた脚本家の小説家デビュー作。


「深層地下4階」D・コープ著(ハーパーBOOKS刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
前科持ちのティーケイクは、いつも通り貸倉庫の夜勤シフトに入っていた。ふと気づくと、壁の奥からかすかなブザー音が聞こえる。発信源を突き止めるため、同僚のナオミとともに壁をぶち破ると、そこにはブザー音と異常を知らせるランプが点滅する、存在しえない深層地下階の図面パネルがあった。それは40年前、小さな町を全滅させるほどに進化した生体が極秘に封印されている場所だった……。


 物語は冷戦終結前の1987年、ロベルトとトリーニ、2人のアメリカ軍将校がある生物のサンプルを政府の貯蔵施設の奥底に保管するために向う描写から始まる。
 彼らはそのしばらく前、西オーストラリアにある辺境の町からの通報により、一人の女性微生物学者と共に現地へ渡っていた。彼女は'70年代のNASAの宇宙ステーション(スカイラブ)計画の過程の中で、宇宙に運ばれたある菌類―真菌類生物がスカイラブの残骸と共に地球へ戻ったのだと語り、さらに高レベルの遺伝子構造の変化によって新種の生物―コルディセプス・ノヴァスが誕生したのだと推測する。
 ―最終的に、ロベルトとトリーニは大きな犠牲を払いつつ、コルディセプス・ノヴァスを壊滅した町ごと焼き払い、極微量の標本をアチソン洞窟の政府貯蔵施設の深層地下4階に封印する……ここまでが約70ページほどのプロローグ部分。

 本筋はそれから32年後の2019年、アチソン洞窟の貯蔵施設は既に民間に売却され、一般向けの貸倉庫となっていた。封印された真菌の存在は次第に忘れ去られ、なかったものとなっていた。
 そんなある日、貸倉庫の夜勤シフトに入っていた前科持ちのお人好しの青年ティーケイクは、耳慣れない警報のブザー音が壁の中から聞こえて来るのに気付く。同僚で、以前から密かに気になっていたシングルマザーのナオミと相談した結果、壁を壊して音の正体を確かめようとする。
 壁の中には複雑な計器パネルと警告を告げる点滅ランプ、そしてこの貸倉庫には存在しない深層地下4階を示す図面パネルが現われる。二人はその深層地下4階まで降りてみることにする。

 その後、地下深く封印されていた筈のコルディプス・ノヴァスが異常な進化能力によって既に封印から逃れ地上へと現れていたことが描かれ、ナオミの元夫、ティーケイクらの上司グリフィンやその仲間、貸倉庫の顧客の一人の老婦人ルーニー、さらには既には退役していたロベルトらも巻き込んだ地獄の一夜となる……。

 ジャンルとしてはバイオ・ホラーになるんだろう。真菌生物であるコルディセプス・ノヴァスだが、このモンスターっぷりが凄まじい。宿主となる高等生物(人間その他の哺乳類、昆虫etc)に取り付くと急速に体内を移動、脳に寄生して急激に増殖し宿主をコントロール下に置き、最後には宿主の身体内に充満、破裂してより増殖しようとする。学習能力を持ち(脳も意識もないのに)、さらには自らの構造を変え化学物質を構成していく共生体を持つため、様々な障壁も突破してしまうというチートぶり。感染した生物は、死体であろうとこの真菌によってゾンビの如く動かされ、自らをばらまくために利用されることとなる。何となく「ガメラ2」のソルジャーレギオンとレギオン草体(プラント)を思い出した。ソルジャーとプラントはあくまで別個体であり、爆発して種をばら撒くのに対し、こちらの真菌は宿主を破裂させて自らをばら撒くのだが。

 この辺りの解説は研究者などの登場人物の口から語らせるのでなく、あくまでも作者―神の視点から描写されるので、「増える」という本能だけで個/総体としての意識や知能、そもそも脳すらないはずの真菌が、一個の意志を持った怪物のようにも思えて来る。登場人物たちの描写が続く中に、怪物自身のモノローグが挿入されるのはホラー(ミステリなら犯人)で時折見受けられるパターンだが、本作ではプロローグの段階でこの怪物がどんなものなのかある程度明確にわかってしまうので、感染したら100%死ぬというヤバさは印象付けられるが、一方で「相手が何なのかわからない怖さ」という点は削がれてしまったようにも思える。

 登場人物についてはかなり書き込まれており、特にティーケイクとナオミ、そして退役軍人のロベルトについては……現代社会における種々の問題も含め、特に丹念に書き込まれている(ラストで活躍するのかなと思った人物が途中であっさり退場してしまう面もあるが)。
 真菌による感染(寄生)というキーワードがあるので、ある程度大規模なパニックが起きることを期待したのだが、人物描写に紙数を割いたからか、事件規模や関わる人物は案外コンパクトな印象。これは著者が映画を多く手掛けた脚本家だったことから、映像化した際の尺を無意識のうちに考慮していたのかも。そう考えてみると、様々な場面が全て具体的にイメージしやすい(頭の中で映像化しやすい)のも、著者の腕なんだろう。

 ラストは一気に畳み掛けるというより、力づくで強引にカタを付けたという感じ。これはストーリ自体もそうなのだけれど、色々な面でアメリカらしいよねと思える一方で、この最終手段を実際に(作中で)用いたフィクションって実はさほど多くないんじゃないかと(宇宙方面は別にして)。いずれにせよ日本じゃ絶対に不可能だが。

 映像化は……やっぱりない、だろな。

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「ファンタジーへの誘い 海外SF傑作選9」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 講談社文庫から昭和50年代に刊行されていた「海外SF傑作選」シリーズの最終巻、”ファンタジー編”。

「ファンタジーへの誘い 海外SF傑作選9」編)伊藤典夫(講談社文庫)

◆内容紹介(裏表紙から)
茫漠たる宇宙に於ける人間という小さな存在。
その大いなる孤独をSFならではの手法で描くファンタジー13篇。

 昨年6月に「古書 七七舎」(国分寺)にて「海外SF傑作選」シリーズ全9冊のうち、7冊が出ていたのをまとめて購入した内の1冊(残り2冊のうち1冊は昨秋の神保町、神田古本まつりで入手)。
 同シリーズは元々、日本SF界の巨人の一人、福島正実氏の編纂により1973年に芳賀書店から全10巻で刊行されていたもので、これを再編してまとめたのがこの講談社文庫版の第1~8巻だった。福島氏が1976年に急逝した後伊藤典夫氏がバトンを引き継いだものがこの9巻であったらしく、文庫オリジナルとなる。【8/10一部訂正】

 ファンタジーと聞くとどうしても魔法使いやらドラゴンやら勇者やら中世ヨーロッパ的風景描写やら……それこそドラクエや「ロード・オブ・ザ・リング」みたいなイメージを想い起こしてしまい(その発想が死ぬほど安直なことは百も承知で)どうも苦手というか食わず嫌いなところがあって避けてしまうところがあった。が、今回はSF傑作選の1冊であり、他巻の収録作も比較的面白く読めたものが多かったので、ものは試しとばかりに。

 全13編収録。

死神よ来たれ(P・S・ビーグル)
 ジョージ2世の治世下のイギリス、日毎パーティーに明け暮れる老貴婦人がいた。全てに飽いた彼女は「パーティーに死神を主賓に招く」と宣言する。死神の意外なキャラクター造形が面白い。前半で老婦人の傲慢さを表すある描写があるが、厳密な階級社会だった当時の英国なら無理ないことだろうし、それが結末への布石になっている

不可視配給株式会社(B・W・オールディス)
 新婚夫婦の家の前に故障か何かで止まっていたトラック。乗っていた男を家に招じ入れると、彼は扱っている"売り物"について話を始める。男と女、夫婦間の意識のギャップとは昔も今も変わらないのか。結末は……いつの世も往々にして女性は男性よりも強かで賢明なのだなあ、とw

大いなる旅(フリッツ・ライバー)
 砂漠の真ん中で目覚めた「私」は、そのすぐ近くで種々雑多様々な動物が果てしない行列を作って進んでいくのに気付く。「私」はその行進に加わるが……。旧約聖書中のあの、つとに有名なエピソードのイメージか

この卑しい地上に(フィリップ・K・ディック)
 家族や周囲から魔女呼ばわりされる娘は、奇妙な存在と交信する儀式に熱中していた。恋人は彼女を必死で止めようとしていたが……。「ある存在」が何者なのかわかり辛いが、前半のダーク・ファンタジー風の雰囲気から一転、後半の眩暈を誘うような悪夢への展開が凄まじく、また著者が後年の作品で描き続けたテーマに連なっているのを読むと、初期の作品ではあれども実にディックらしいというか

ふるさと遠く(W・S・テヴィス)
 ある夏の朝、老人は自らが管理人を務めているプールに巨大なクジラが浮いているのを発見する。今回の収録作で最も気に入った一篇。ぜひ絵本にして欲しい

十三階(ウィリアム・テン)
 オフィスビルの専従管理人を訪ねて来た長身と小人の男二人組。彼らはそのビルにない13階フロア全部を借りたいと奇妙な申し出をしてくる。昨今ちょっとした流行りの物件ホラーの変奏ともいえるか。コメディのような展開から一転、悪夢的なラストを迎えるのはこの作者の味かも

闇の旋律(C・ボーモント)
 ハイスクールで生物学を教えるメイプルは、厳格な宗教的倫理観に基づいて現実的な性教育を拒否する一方、同僚のスキャンダルを保身に利用する女性だった。ある日の課外授業中、彼女は森の中で不思議な音楽を耳にする。純潔や清らかさを信奉する一方で、同僚の色恋や不貞を嬉々として利用する狡猾さを持つ主人公が何とも嫌な人物。彼女に起きたことは、抑圧された性衝動が生んだ妄想や幻覚……なんて解釈は無粋か。最後の1行が、彼女に対する周囲の評価を明確にしているのだろう

順応性(C・エムシュウィラー)
 娘に向けた母親の手紙という体裁で書かれたと思しき体裁の一篇。自らの風貌の異質さを隠すため、髪を染め顎を削る整形手術を受け、平穏に迎合し続けた母親が、娘にはその異質さを隠すことなく、自分らしく生きよと諭す―。根底にあるテーマは「女性らしさの解放」だろうし、あるいは様々な意味でのマイノリティと呼ばれる人々―といった現代的なものにも通じるだろうが、何とも不思議な手触りの話でもある

街角の女神(M・セント・クレア)
 貧しい独り身のポールはある日街角で女神と出会い、家に連れて帰る。女神は年老い、疲れ切っていた。ポールは女神にお世話をさせて欲しいと懇願する。力を喪った神であろうとその庇護下にいたいと願う人間がいる、ということか。ある点では収録作中最も残酷な一篇かも知れない

みにくい海(R・A・ラファティ)
「海はみにくい」と力説する苦虫ジョン。その理由を問われ老人は船乗りになったある男の話を語り出す……。ホラ話のような童話のような一篇。強かなツンデレ娘に振り回される男の悲哀と思いきや……うん、男ってやっぱアホだ

名前の掟(A・K・ル・グウィン)
 丘のふもとに住むアンダーヒル氏は魔法使いだったが、その凡庸な人柄とイマイチな魔法故、サティンズ島の村人たちからは気のいい隣人扱いをされていた。ある日、島に若い旅人が舟で訪れる。いわゆる中性的ファンタジーの世界観(あの『ゲド戦記』にも通じてるらしい)で、クライマックスの戦いの場面ですらファンタジックなのだが、ラスト数行の絶望感たるや。見事なまでのバッドエンドがむしろ痛快

きょうも上天気(J・ビクスビィ)
 その村では、全ての村人が三歳になるアントニー坊やに"考え"を読まれることを―家族ですら―極度に恐れていた。ミュータント、あるいは"アンファン・テリブル"テーマにも含まれるか。牧歌的なタイトルに反し、作中を覆う絶望感が強く印象に残る

ゲイルズバーグの春を愛す(ジャック・フィニィ)
 地元の新聞社に勤める「私」は、その街に大型工場を建設する計画を急遽撤回した社長に話を聴いていた。男は前夜、路面電車に危うくはねられるところだったというが、その街ゲイルズバーグの市電はとうの昔に廃線になっていたのである。これが表題作になったフィニィの短編集で既読。時代と共に変化し、往年の姿が失われることを嫌うのは、何も人ばかりではないのか。ノスタルジックなファンタジーという雰囲気だが、過去に囚われ続けるというのはよくよく考えると、恐ろしくもある。

 読了してみると、自分が持っていたファンタジーという言葉のイメージが偏狭だったことに気付かされる。もちろんSF傑作選の中で選定された作品だからということもあろうが、予想以上に愉しめたという感想。


「世界SF傑作選」はこれで手持ち分の8冊を読了。他の巻も暇を見て感想などまとめてみようかと。
※8/10追記 アンソロジー編纂の経緯に関する部分で、Twitterでご指摘をいただいたため修正しています。ありがとうございました。

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「山の霊異記 ケルンは語らず」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 山岳怪談の第一人者による「山の霊異記」シリーズ第5弾。

「山の霊異記 ケルンは語らず」安曇潤平著(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
雪山の避難小屋に響く、ドアを叩く音と叫び声……その意味を理解した瞬間、猛烈な恐怖にとらわれる(「雪山の叫び」)。北アルプスの雄大な自然の中、一人テント泊を楽しむ男が目撃した、異様な光景とは……(「奥又白池の残影」)。数々の奇跡的な生還を遂げた山男が、屏風岩の登攀でパーティに頼んだ切実な願い(「不死身の男」)。現実と地続きでありながら、異界としての山の風景と霊気を存分に堪能できる21篇。本当に怖い山岳怪談。


 シリーズ第4弾「霧中の幻影」をこのGWに読了したばかりだが、今月にこちらが新刊として出ていたので早速購入→読了(シリーズの既刊と作風の変化等については、過去記事や前回の「霧中の幻影」にて)。

 かつての本格的登山から低山への日帰りの山歩きにシフトしてことで、著者本人の体験談(を基にしている)話は、中途の景色や山行の状況などの描写の量が増えており、一段とエッセー色が強まっている感がある。そうして後半になって何となく違和感を覚えるようなことが起きたり、ラストで自分の体験が「不思議な話」であったことに気付くような展開の話が多くなっている(「鈴の音」「稚児落とし」「悪い人」「三日月の仮面」)。

 その一方、オーソドックスな怪談に括られるような話(「雪山の叫び」「奥又白池の残影」)や、山に存在し人間に害を為す存在について語った話(「綱引き」「最後の日記」)も散見されるが、その多くは著者の友人や山仲間の体験談―という体裁で語られる。
 恐怖譚に含まれるのは何も心霊系だけでなく、怖い人間も登山をしており、それも山の恐ろしさなのだと思い知らされるような話もある(「埋まっていたもの」「ブランコ」)。

 幽冥境を異にする相手との邂逅や触れ合い、あるいはそれを通じての生者との別離を描いた作品(「なんじゃもんじゃ」「典子ちゃん」「幸せな背中」「かくれんぼ」「仙気の湯」等)が以前よりも増えてきたように思えるのは、著者自身の心身の健康状態も影響しているのかもしれない。

 登場する幽霊が生々しいというか実体感あり過ぎなのがこの人の怪談の特色でもあるのだが、今回はテント内を歩き回る幽霊の足を掴んだり(「戸惑いの結末」)や、さらには女性の幽霊となんと××××してしまうという、オチまで含めてまるで古典落語の艶噺のような「美人霊の憂鬱」など、「んなアホな?!」とツッコミ必至。

 ネット上の感想を見ると「これは創作小説で実話怪談じゃない」と批判しているものもあるが、作品に創作や脚色を含んでいることは著者自身が述べていることであって、「全て実話」と謳っているわけでもないのだから、まぁいいじゃないのと思うんだが、このシリーズを未読の人が本書を手に取ったら心霊系の実話怪談集と思うのもやむを得ないのかもしれない。

 もとより「怪談」って必ずしも実話ばかりじゃあない、と思うのですがねぇ。


 著者の最近のツィートを見るとまた健康状態をやや損ねているご様子。
 世の中こんな状況だけに、とにかくご自愛いただきたいと切に思う。

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M.R.ジェイムズ怪談全集〈1〉 [Book - Horror/SF/Mystery]

 英国怪奇小説の巨匠として名高い、M.R.ジェイムズの作品集(分冊の第1巻)。

「M.R.ジェイムズ怪談全集〈1〉」M.R.ジェイムズ/訳)紀田順一郎(創元推理文庫刊)

◆内容紹介
ミステリにおけるコナン・ドイルと並び称されるイギリス怪奇小説の巨匠、M・R・ジェイムズ。彼が学究生活のかたわら創作し、友人や学生たちに語り聞かせた怪談の全てを2巻に収める。第1巻にはラヴクラフトをも嘆息せしめた傑作「マグナス伯爵」や、ありえぬ部屋の怪を描く「十三号室」など、古書・古物趣味に彩られた恐怖の愉しみ溢れる15篇を収録。ホラーの真髄ここにあり。


 このブログを覗くような奇特な人もとい怪奇幻想小説に関心がある方には、M.R.ジェイムズがA.マッケン、A.ブラックウッドと並ぶ近代英国怪奇小説の三巨匠―などといった言辞は今さら無用だろう。
 ジェイムズの短編集というと「消えた心臓/マグヌス伯爵」が先月に光文社古典新訳文庫から刊行されたばかりだが、今回の創元推理文庫版もそちらの内容をほぼ網羅している。訳者が異なる(光文社版は南條竹則氏訳)上、創元版は1、2とも絶版なので、光文社版が新たに出たことはかなり意味があることかと。
 もとより、この創元版の怪談全集2分冊が、著者存命中に出版された1冊版全集(1931)を(未収録の6篇も加えて)新たに訳したものだそうなので、光文社でもそのうち続編として出ない……かな。
 こちらは今年2月に国分寺市の早春書店にて購入。1、2合わせて状態がかなり良かった。

 学者、教育者として生涯を送ったジェイムズにとっては怪奇小説の著作は生業ではなく、あくまでも趣味性の高い副業みたいなものだったようで、それ故に商業的なことを優先的に考えることもなく、どこまでも「自分が好きなもの、面白いと思うものを書く」というスタンスが可能だったのだと思う。その点ではある程度パターンが決まったものが多いとも言えなくもないが、愉しんで書いている余裕も感じられる。


◎序
(1931年版) ……上記の全集の序文
◎好古家の怪談集 ……こちらを訳したのが光文社古典新訳文庫版
・序(1904年版)
・アルベリックの貼雑帳
 17世紀の貴重な写本。何かに怯える堂守はそれを安価で譲るという……。ジェイムズ怪談の処女作。友人が描き初版本に掲載された挿絵が使われている(2枚)
・消えた心臓
 年の離れた従兄に引き取られた孤児の少年。その家では以前にも2人の子供が引き取られていたことを聞くが。ペロー「青ひげ」の変奏といったところか。凄惨なラストが印象的。
・銅版画
 馴染みの画商から送られた銅版画。美術館員はそれが時間を追って変化していくことに気付く。「変化していく絵」という芸術怪談ではおなじみのテーマなのだが、結末は今一つ。
・秦皮の樹
 魔女裁判に関わった貴族が変死した部屋。屋敷を継いだ息子はある日からその部屋で寝起きすることとなったが。「魔女の呪い」がテーマ。ラストのグロテスクさは収録作随一。
・十三号室
 デンマークのある宿の12号室に泊まった男。ある夜、隣室が案内されていない13号室になっているのを目にする。「存在しないはずの部屋」が題材だが、なぜそれ以前は気付かれなかった?
・マグナス伯爵
 ある男が遺したスウェーデン旅行記の草稿。そこには、現地の貴族の初代当主の事績に惹かれていく男の様子が描かれ……。酷薄な伯爵に無意識に惹かれていく様が薄気味悪い。気付いた時には手遅れ、ってか。
・笛吹かば現れん
 休暇で保養地を訪れた大学教授は、礼拝堂の遺跡で金属製の古い笛を拾う。アンソロジーでも頻出の名作の評高い一篇だが、クライマックスで現れる※※※の怪物というのがどうにもユーモラスに思えて怖さが感じられなかった……のだが、挿絵を見ると、うん、怖いかもw
・トマス僧院長の宝
 かつて僧院長が秘宝を隠したと伝えられるドイツの修道院。その謎を記した暗号を解読した男は従僕を伴い現地へと向かう。短いながら三部構成になっており、暗号の謎解きが他作品とは異なる趣を添えている。

◎続・好古家の怪談集
・序(1911年版)
・学校綺譚
 ラテン語の教師はある生徒が提出した作文の答案を妙に気に掛ける。生徒は「無意識にそれが浮かんだ」と語るが……。オチを兼ねた後日譚がやや唐突。
・薔薇園
 敷地内にある朽ちた四阿を整備し薔薇園を作ろうとした夫人は、元の地主であった女性から、子供の頃に其処で自分の兄が見た奇妙な夢の話を聞かされる。いや、そんな曰くがあるなら最初に言ってよ、と言いたくもなるw
・聖典注解書
 閉館間際の図書館にある本を探しに来た初老の男。頼まれて書架へ探しに行った図書館員はその本がタッチの差で貸し出されていたことに気付き……。王道のジェイムズ怪談に遺産相続の謎解き、さらにロマンスのトッピングまで添えた一篇。ここまでハッピーエンドなのも珍しい。
・人を呪わば
 学会での講演を拒否された男は何かと不穏な噂の絶えない人物だった。彼の著書を手ひどく批判した人間はその後変死を遂げていたことがわかる。魔術師から逆恨みされた学者がかけられた呪いを切り抜けるために奮闘するスリリングな一篇。
・バーチェスター聖堂の大助祭席
 急死した教会の大助祭(教会の職制)。語り手の「私」は偶然手にした資料から大助祭の死の秘密を知るに至る。温厚篤実と評判だった大助祭の秘められた過去とそれが受ける報いを日記や書簡類から記した―という体裁で、サスペンスフルなことでは随一。
・マーチンの墓
 17世紀に殺人の罪で絞首刑になった若い男。現地の人間はその男が、殺めた若い娘の亡霊に悩まされていたと語るが。殺人で死刑となった男の裁判の模様が大半を占めるが、当時の階級社会的な視点も垣間見える。
・ハンフリーズ氏とその遺産
 生前面識のなかった伯父から邸宅と土地を遺産として継いだ若者。その庭に櫟(イチイ)の植え込みで作った迷路があり、伯父はそこへ誰も立ち入らせなかったという。迷路や怪異にまつわる因縁などは曖昧なまま、何ともモヤモヤの残る一篇。

『好古家の怪談集』の作品は、
 ある人間が旅先その他で何らかのもの(邸宅、墓所、その他の事物)に触れる
 →そこに何かしら曰くがあることが語られる
 →次第に周囲で奇妙な変異が起こる
 →クライマックスで変異は怪異となって姿を見せる
 →伝聞などの体裁で曰くについての補足や後日談が手短に語られる
といった、ある程度似通ったパターンで書かれている(暗号による謎解きが書かれた「トマス僧院長の宝」もあるが)。結末や曰く、因縁等についてはさらっと流され、くどくどしく描かれないのが特色ともいえる。
 一方『続・好古家の怪談集』の作品は、「聖典注解書」「バーチェスター聖堂の大助祭席」などのミステリ仕立てのものや、魔術師vs学者の駆け引きがテンポよく描かれた「人を呪わば」などバリエーションに富んでいる。
 ジェイムズ作品でアンソロジーに収録されるのは「笛吹かば現れん」「マグナス伯爵」「銅版画」など『好古家の怪談集』からの作品が多いようで、この味がジェイムズ作品の魅力とも言えなくもないが、読み物としてより面白いのは『続~』収録作ではないかとも感じられた。恐怖譚としては読み手にインパクトを与えつつも、正調な英国怪奇小説としての雰囲気を醸し出しているのは『好古家』の方かもしれない、が。

「専門が古代研究であるから、題材は古いものにとったものが多い。―その因縁的怪異を現代とのかかわりあいのなかで語る。その結構の巧みさ、洗練された話術のうまいことは、まず右に出るものがない」
「最初はさりげない、ごく日常的な書き出しから始めて、しだいに暗怪な雰囲気をかもしだしてながら、静かな、そしてたしかな語りくちで、あの手この手、累々層々と、第一、第二のクライマックスへと盛り上げてゆく」
とは平井呈一によるジェイムズ評である。

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「幻想と怪奇 傑作選」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 1973年4月~74年10月まで計12冊が刊行された伝説の雑誌『幻想と怪奇』の傑作選。

「幻想と怪奇 傑作選」監修)紀田順一郎・荒俣宏(新紀元社刊)

◆内容紹介
1973年4月、雑誌〈幻想と怪奇〉創刊。当時からすでに幻想文学紹介の先頭に立っていた紀田順一郎・荒俣宏による、文字どおりの「我国最初の幻想怪奇文学研究誌」だった。翌74年10月号の休刊まで12号を発行、1年6ヶ月という短い期間ではあったが、名のみ知られた数々の名作を掲載し、後の幻想文学出版の礎石となった。休刊から45年。ここに〈幻想と怪奇〉掲載作および、評論、コラム、書評を厳選し復刻。寄稿者による書き下ろしエッセイと、〈幻想と怪奇〉の前身と言うべき幻の同人誌〈THE HORROR〉全4号を収録した、幻想文学愛好者必携の一冊。

 かつて『幻想と怪奇』のオリジナル版(という言い方が適切かどうかはさておき)が刊行されていたのが47、8年前。当然その頃のものを自分が知る由もないし、10代の頃にこの怪奇幻想恐怖小説の泥海にハマるようになってからも、最初は翻訳もの、国内作家もの問わずモダンホラー方面ばかりに目が向いていたため、かつて『幻想と怪奇』というその手の専門誌があったと耳にはすれど、あえて古書を渉猟しようという気までは起きてこなかった。
 ってまぁ、そんなことはどうでもいい。

 今年2月に新紀元社から新創刊となった同名誌のパイロット版というか、Vol.0的な意味合いもあったんだろう。折しも昨年8月には「幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成」が創元推理文庫から刊行されていたが、その流れも何らかのかかわりがあったんだろうなと。
 当時の誌面で邦訳が紹介され、後に書籍に収録された作品は数多いが、今回の傑作選は未収録のものが選ばれたとのこと。

 各作品について一言感想
ジプシー・チーズの呪い(A.E.コッパード)
 ジプシーからチーズのレシピを騙し取った男が受ける報い。クライマックスからの畳み掛けが印象的
闇なる支配(H.R.ウェイクフィールド)
 美しく退廃的な家庭教師の女性に"支配"された少年の異常な記録。ウェイクフィールドがこんな作品を書いていたとは驚かされた。てか筋書きだけならR18よこれw
運命(W.デ・ラ・メア)
 長い旅から戻った旅人が、我が家の近くで出会った馬車。彼は自分の村まで乗せてもらうが……。物悲しく残酷な掌編
黒弥撒の丘(R.エリス・ロバーツ)
 異教徒が儀式を行ったという伝承のある〈犠牲(いけにえ)の丘〉で"私"が見た異様なものとは。マッケン「パンの大神」もそうだが、非キリスト教的モチーフというのは彼ら欧米の、特に怪奇幻想作家にとっては魅力的なモチーフなんだろう
呪われた部屋(A.ラドクリフ)
 伯爵の城館の「呪われた部屋」に泊まることを希望した騎士を待つ運命。長編の抄録みたいなものらしいので、前後関係や登場人物が今一つわかりにくい
降霊術士ハンス・ヴァインラント(E.シャトリアン)
 狂信的な降霊術士が図った世界への復讐とは……。マッド・サイエンティストテーマの変奏ものみたいなもの、とも言えなくもないか
(メアリー.W.シェリー)
 名門最後の一人となった美しい女伯爵の物語。編者序文には「ゴシック趣味の旧套を誰よりも早く脱ぎ棄てた先覚者」とあるが、この作品はそれこそゴシック趣味じゃないのかなあ……と。
子供たちの迷路(E.ランゲッサー)
 申し訳ないがよくわからない。こういう作品は苦手。
別棟(A.ブラックウッド)
 夜毎自分をこっそり訪う存在を見つけようと、立入りを禁じられた屋敷の別棟に踏み込む少年。読み始めてから「翻訳編吟」さんの同人誌で読んでいた作品と気が付いた。
夜窓鬼談(石川鴻斎)
 江戸後期~大正時代の詩文家による随筆。鬼神論、牡丹灯籠、冥府(彼の世)について
鬼火の館(桂千穂)
 戦時下、密やかな恋に揺れる若い未亡人と、彼女を慕う義弟……。運命の皮肉。自転車のライトが鬼火に見えるのは、闇が濃かった往時ならではか
誕生(山口年子)
 三姉妹の次女に起こった異変に翻弄される裕福な家族。次女は"闇が近付いてくる"と怯えるが……。ラストは衝撃的だけれども、何か物足りないというか「どういうこと?」という感想が拭い切れない

 今回収録された作品は、自分の酷く偏った好みからするとどうも今一つ。むしろ特別収録された同人誌「THE HORROR」の方が面白かったのも正直なところで。
裏庭(J.Pブレナン)
なぞ(W.デ・ラ・メア)
だれかがエレベーターに(L.P.ハートリー)
オハイオの愛の女像(A.ジェイムズ)
ムーンライト・ソナタ(A.ウールコット)
死刑の実験(J・ウェイト)
 デ・ラ・メア「なぞ」はこの手のアンソロジーのマスターピースなのでさておき、他は煽情的だがストレートな恐怖譚として単純に愉しめた。
 その他、当時の評論、書籍レビュー、全巻の編集後記等も載っていて興味深い。



 なんかやけに読了に時間がかかった気がする……。

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「家が呼ぶ 物件ホラー傑作選」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 怪談やホラーの定番、家や賃貸部屋など住まいをテーマにしたアンソロジー。

「家が呼ぶ 物件ホラー傑作選」編)朝宮運河(ちくま文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
おそろしい家、奇妙な家、住みたくない家、不思議と惹かれてしまう家……「家」にまつわるホラー作品は古今東西人々の心を掴んで離さない。王道の屋敷、マンションにシェアハウス、様々なタイプの「物件」をモチーフ&舞台に据えた“逃亡不可能”な短篇を一堂に集結!怪奇好きからビギナーまで病みつき必至の贅沢な特選アンソロジー。

 Twitter上で編者さんが告知していたのを見て、発売とほぼ同時に購入→読了ってのは、積読山が高くなる一方な近頃の自分にはちと珍しい。
 幽霊屋敷テーマの長編なら国内外の傑作がいくつも思い浮かぶし、“曰く付きの物件”モチーフは実話系怪談では昔から王道中の王道だろう。生きていく上で不可分な「住まい」であるが故に、そこに纏わる怪異や恐怖というものが、多くの読者にとって身近なリアリティを持つってことなんだろう。
 本アンソロジーは「物件ホラー」という枠で括られつつも、定番ものだけにとどまらないバリエーション豊かなラインナップ。
 以下、収録作の手短な感想など。

(若竹七海)
 旧友の実家の差し向いの家の塀にあった妙なしみ。旧友が「私」に語ったその家と住人の顛末。
 著者と思しき「私」が友人から聞いた怪談―という体の一作。真相や因果関係は明らかにされたわけではないが、終始あっけらかんとした語り口調に、逆にこんなことは実際にあるんじゃなかろうかと思い始めてしまう。
ルームシェアの怪(三津田信三)
 4人でルームシェア(ハウスシェアか)する一戸建てに入居した女性。ある日から住人の一人の様子に違和感を覚えるようになり……。
 短編集で既読。著者は長短編問わず「家」モチーフの作品が豊富なので、本アンソロジーに作品が収録されると知った時どれになるかと思ったんだが、これでしたか。クライマックスの盛り上がりは正調“三津田節”といったところ。
 余談だが、著者自身がこのテーマで自選短編集を編むとしたら―という内容で作品を挙げるツィートをしていたので、是非とも実現させていただきたい。
住んではいけない!(小池壮彦)
 ここで実話怪談がいくつか。ど定番は「実は事故物件でした」ものから、何とも奇妙な話まで10篇。『岐阜の幽霊住宅騒動』は前世紀末に役所からマスメディアまで大々的に巻き込んだ騒動らしいが、寡聞にして知らなかった(汗。最後の『ドール・ハウス』のみ趣を異にし、少女たちのオカルト風ままごと遊びが禍々しく語られるが……妙な読後感が残る。
はなびえ(中島らも)
 調香師の主人公が元恋人の不動産屋の紹介で入居したマンション。住み心地は快適だったが、次第に使っていないはずのシャワーの音がし、さらに1階のラーメン屋が煮込む豚骨スープの臭いが気にかかるようになる。
 ホラー連作短編集「人体模型の夜(集英社文庫)」からの1篇。予想通りの“曰く付き物件”ホラーなのだが、文体や雰囲気から平成初期、バブル末期の空気が漂って懐かしい。返す返すも中島らも氏の急逝が惜しまれる。「人体模型の夜」も一回買い直そうかしらん。
幽霊屋敷(高橋克彦)
 幽霊が出ると噂になっている空き家を深夜に訪れた男性。その家は嫁いだ後に事故で亡くなった娘が住んでいた家だった。
 娘の幽霊が自宅に居付いたこと、様々な怪異が頻発したこと、それらの理由が明らかになる結末が短くキレがいい。物悲しい話で終わるかと思いきや、ラスト1行でゾッとさせられる。
くだんのはは(小松左京)
 もはや内容の紹介など無用、講釈など蛇足、な昭和ホラー短篇のマスターピース。多くの場合終末テーマか怪物テーマで括られる作品なのだろうけど、これを「物件」ホラーで採り上げて来たか、と。確かに作中の“お屋敷”は、時代背景と相俟って一層印象に残る。
倅解体(平山夢明)
 長年自室に引きこもり怪物化した息子。疲れ果て老いた両親は息子を始末しようとする。
 とにかくまとも(そう)な登場人物が1人として出てこない。普通の会話ですらコントのようであり、狂気や異常性を感じさせるようでもあるのはいかにもこの著者らしい。が、程度の差はあれこういう話は実際に起きているわけで。
U Bu Me(皆川博子)
 田舎の古民家へ転居した女性が「あなた」へ宛てたメールの体裁で語る、が……。
 当初の近況話が次第に不穏さを帯びていく。女性が「信頼できない語り手」であるのは、「病院の廊下を臍の緒を垂らして這う胎児」の話で序盤に提示されているのだが、彼女が狂気に至ったのはいつなのか、理由はその家なのか、そもそも何が起こったのか
「あなたには、どうでもいいことですね」……そうですね。
ひこばえ(日影丈吉)
 都心の片隅にある洋館が気になった主人公は、知人の探偵に依頼しその家を調べ始める。
 恐ろしいのは家に取り憑いた存在ではなく、○○だった、という話。タイトルの意味がわかるラスト1行で、その恐ろしさが文字通り色を帯びて鮮やかに立ち上がってくる。
夜顔(小池真理子)
 病弱な上に孤独な女子大生が、散歩の中途出会った瀟洒な住宅に住む3人家族と細やかで穏やかな友情を結ぶ、が。
 幽明境を異にする者同士が、孤独さにより結び付く……恐ろしくも身に詰まされるのは彼らの存在よりもむしろ、主人公に宿痾のようにまとわりついた孤独かもしれない。小さな温もりの後に再び訪れる孤独と絶望―という点で、内容は全く異なるがM・ルヴェルの「フェリシテ」を思い出した。
鬼棲(京極夏彦)
 大正時代に建てられた洋館に独居する伯母を訪ねた主人公。会話を交わしていく内に、彼はその「家」の秘密を知らされる。
 掉尾を飾るのは、毛色の一風変った作品。「理路整然とした、それでいて不穏さを感じさせる台詞」による会話は衒学的でもあり、この著者の長編もこんな感じだったなと。「なぜ人は怖がるのか「なぜ幽霊は怖いのか」といった根源的な問題に一つの考察を提示している点でも面白い。



 考えてみると「家」「物件」テーマに絞ったホラー・アンソロジーはこれまで翻訳物も国内作品でもほぼなかったかもしれない(実話怪談系なら、MF文庫の「怪しき我が家 家の怪談競作集」があるけど)。その点でも本アンソロジーはかなり画期的なんじゃないだろうか。


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【訂正というか追加 '20.06.16】

 末尾に「『家』『物件』テーマに絞ったホラー・アンソロジーはこれまで翻訳物も国内作品でもほぼなかったかも」と書いてしまったが、このテーマの書き下ろしアンソロジーで、異形コレクション33巻「オバケヤシキ」があったなと思い出した
 三津田信三氏の作品で今回のアンソロジーに入るとしたら「見下ろす家」かなと当初思っていたたんだけど、それはこの『オバケヤシキ』収録でしたっけ……


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「ドイツ怪談集」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 1980年代後半に河出文庫から刊行されていたものの復刊版。18世紀末のドイツ・ロマン派から近現代まで幅広く収録されている。


「ドイツ怪談集」編)種村季弘(河出文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)

知らない男が写りこんだ家族写真、窓辺に女が立つ廃屋の秘密、死んだ人間が歩き回る村、死の気配に覆われた宿屋……。ホフマン「廃屋」、マイリンク「こおろぎ遊び」、ヤーン「庭男」など、黒死病の記憶のいまだ失せぬドイツで紡がれた、短編の名手たちによる恐るべき悪夢の数々。種村季弘の選が冴えわたる、傑作怪談アンソロジー!

 ドイツの怪奇幻想小説というと、ただでさえ読書傾向が酷く偏っている自分にはどうも具体的なイメージが湧いてこない。最も基本といえる『怪奇小説傑作集5<ドイツ・ロシア編> (創元推理文庫)』は相当前に読んでいるけれど、これまた定番中の定番、エーベルス「蜘蛛」くらいしか印象に残っていないという……どうやらドイツ文学は自分の嗜好にはイマイチ合っていないのかも知れぬ(ビールとソーセージは大好物だけど)。

 以下、収録作品について短い感想。
ロカルノの女乞食(H.V.クライスト):短く簡潔であるが故に定番となったのか
廃屋(E.T.A.ホフマン):定番の幽霊屋敷ものと思いきや……不気味な老管理人に狂った老女にジプシーとなかなか詰め込まれてる
金髪のエックベルト(L.ティーク):収録作中最古(18C末)で中盤までは御伽噺的ながら、ラストの展開は多分に現代的ですらある
オルラッハの娘(J.ケルナー):19C当時ながら精神病理に明るい著者が書いた"霊憑り"の話。実際現代においてもキリスト教―就中カトリックの"悪魔祓い"は精神病理と密接に関わっているようで。
幽霊船の話(W.ハウフ):遭難者が命からがら乗り込んだのは呪われた海賊たちの船だった―アラビアン・ナイト的エキゾチックな一篇
奇妙な幽霊物語(J.P..ヘーベル):幽霊が住まうと噂される城に潜んでいたのは。ユニークだけど怪談ではない、ね
騎士バッソンピエールの奇妙な冒険(H.V.ホーフマンスタール):騎士と小間物屋の若女房との一夜のアバンチュールとその顛末。
こおろぎ遊び(G.マイリンク):チベットの悪魔司祭がドイツの研究員に見せた魔術。虫の大群が演じる狂態はそのまま第一次世界大戦のメタファーなのだろう
カディスのカーニヴァル(H.H.エーヴェルス):カーニバルの喧騒の中に現れた1本の木の幹。因果も真相も語られずに残る不条理感は「奇妙な味」と言える。収録作では最も気に入った一篇
死の舞踏(K.H.シュトローブル):恋人を喪った医学生が謝肉祭の祝宴で出会った仮装の女性。ラストシーンの印象が強烈だが、今後リストの「死の舞踏」を聴くとこの描写が甦ってきそうな
ハーシェルと幽霊(A.シェッファー):う、うーん……「何だったの?」としか
庭男(H.H.ヤーン):ヤーンの短編集『十三の不気味な物語』は昔読んでいるが、当時も馴染めなかったし、今回も同じく。フォークロアの衣を借りた不条理もの、なのか。
三位一体亭(O.パニッツァ):行き交う旅人に教えられた宿に住まう異様な家族。豚小屋から聞こえる不気味な笑い声、一夜が明け、近所の職人が教えてくれたその家の「呼び名」……終始異様な雰囲気だが、同様の筋立てでも英国ならこうはならないだろう、というのがドイツ的なのか
怪談(M.L.カシュニッツ):オーストリア人夫妻が旅先のロンドンで出会った兄妹。夫は母国で見かけた記憶があるというが……。タイトル通り、収録作では最も"怪談"らしい怪談。
ものいう髑髏(H.マイヤー):時折「お告げ」を口にするという偉人のしゃれこうべの謎を巡るややブラックなコメディ。60年代末の作品だけあって、現代的なシニカルさが効いている
写真(F.ホーラー):時間を超えて家族写真に姿を現す謎の男性。単純に考えればその正体は○○であろうが、そうでもないようで……。モダンホラーというより、多分に(本邦の)"耳袋"風に感じられた
 イギリスやアメリカの古典怪奇小説の味わいとも、それらの作品に漂う闇や暗さとは異なる鈍重な雰囲気が収録作を通じて覆う。それが大陸的な陰鬱さというものなんだろうか。


 ……なーんてわかった風な結論で締め括ってみたりしたりして。

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「山の霊異記 霧中の幻影」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 山岳怪談の手練れによる実話系怪談集「山の霊異記」シリーズの4冊目。

「山の霊異記 霧中の幻影」安曇潤平(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
すれ違う登山者に挨拶するたび、返ってくる奇妙な反応に不安を覚えた矢先、ある男の指摘に戦慄する「命の影」。友人と歩く山道で見かける人影の異様さに気づいた瞬間、恐怖に襲われる「ついてくる女」。気さくな女将が饒舌に語る息子の様子と、滞在中姿を見なかった少年からの葉書に震撼する「ぼくちゃん」など16篇。先の見えぬ濃霧、藪に隠れた谷、雪山の足跡―死と隣り合わせの山の怪異を畏怖とともに描く、山岳怪談の決定版。


 単行本の版元が途中でメディアファクトリー→角川書店へ移っているので、前冊の「幻惑の尾根」から文庫も角川文庫に変わっている。既刊の文庫版は過去記事でも採り上げさせてもらっている(1冊は別のレーベル)。

「死霊を連れた旅人」(だいわ文庫 2017年2月)

 著者の年齢や健康状態の関係から、かつての本格的登山から緩めの山歩きや釣りに嗜好が変ったこともあってか、初期の頃のような苛酷な登山の現場での怪談は少なくなっており、それに比例して怪異が起こる前段階の山行の描写が饒舌になっている(3冊目辺りから感じてはいたが)。1冊目の頃のどストレートな怪談を期待すると退屈だが、その辺りは紀行文、エッセーみたいなものと読めば、自分のような門外漢であってもそう悪いもんでもない。

 登山口での待ち合わせで先についていた友人の不可解な態度「石田の背中」、山道での休憩の都度小さな三枚鏡を覗き込む女性「三枚鏡」、山道で自分を励まし案内するように脳内で響く声の正体「声が聞こえる」、箱根―三島を結ぶ古道で遭遇した恐怖「推定古道」など(この著者としては)オーソドックス寄りの山岳怪談もあれば、岩手県遠野を訪れた「河童淵」、山歩きの帰途鎌倉市内で入った時代がかった洋食屋「鎌倉奇談」等の“異界との緩やかな邂逅”をつづったもの、著者自身強烈な体験だったんだろうと思わせる表題作や巻末の「山を這う蟻」など全16篇。

 実話怪談として読んだら創作色が濃すぎて興醒めしてしまうかもしれないが、巻末に収録された夢枕獏氏との対談中でも、著者は

 夢枕 (中略)本に書かれていることはすべて実話なんですか?

 安曇 基本的には、という感じですけどね。他の場所で起こった怪談を「こんな怪談はあの山の景色が似合いそうだな」と組み合わせて一篇にすることもあります。

というように、ある程度の創作や脚色があることを述べている。

 何より山というのは―例え日帰りで登頂して戻って来られるような低山であっても―普段暮らす街中とは隔絶した異界であって(その辺はあの『山怪』を編集した勝峰富雄氏が巻末の解説で詳しく述べている)、そこでは理解を超えるような事、信じ難い事が起きるのもあり得るように思えて来る。
 話の殆どで著者は往路での怪異と遭遇した場合、素直に引き返して山を下りている。その辺りがもしかすると、幾度となく不可解な体験、恐ろしい目にあっても無事でいた理由なのかもしれない。




 Amazonによるとこのシリーズ、単行本では5冊目(「山の霊異記 ケルンは語らず」)が既刊で、文庫版は7月末刊行予定とのこと。

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