「とうに夜半を過ぎて」 [Book - Horror/SF/Mystery]
SFの叙情詩人、ブラッドベリの短編集。
◎「とうに夜半を過ぎて」R・ブラッドベリ著(河出文庫刊)
◆内容紹介(裏表紙から)
これぞブラッドベリの真骨頂! 幻想・耽美・恐怖のめくるめく世界。やさしくて叙情的、なのに背筋がぞっと凍りつく―。海ぞいの断崖の木にぶらさがり揺れていた少女の死体を乗せて、闇の中を走る救急車が遭遇する不思議な恐怖を描く表題作ほか、SFの詩人が贈る、とっておきの21編。
原本の初版は1976年で、'04年に新装版が出た模様。
邦訳版も集英社から'78年に単行本、'82年に文庫化されている。「罪なき罰」「永遠と地球の中を」の2編は当時収録されなかったものの、今回はそれらを含めた完訳版となっているとのこと。
解説で書かれている如く、収録作品22編のうち狭義のSFといえる作品は4、5編。
とはいえ訳者の言葉通りその他の作品が恐怖と幻想と耽美に満ちあふれているのかというと……そうでもないような。ストレートな恐怖譚といえるのは、ラスト1行の後に広がるであろうグラン・ギニョール「十月のゲーム」、ある夏の日、イカれたヒッチハイカーを乗せてしまう「灼ける男」くらいで、それ以外は広義の幻想譚や心理劇、いわゆる奇妙な味、ユーモア―といったもので、それらを通して人生が持つ希望や悲しみ、残酷さを唄って(描いて、ではなく)いる……ように感じる。
個人的に印象に残ったのは……
“親爺さん”こと、ある偉大な作家が愛したオウムの行方を追う(「親爺さんの知り合いの鸚鵡」)、平和を願った軍曹が、最前線で起こした意外な<戦争を止めるための行動>(「木製の道具」)、若い女教師と少年との、「恋」とは呼べない恋の物語(ある恋の物語)、クリスマス・イヴに<私>が願ったこととは(「願いごと」)、そして冒頭の1行目からひりひりとした緊張感で、それがラストで戦慄となる「十月のゲーム」など。
一方で表題作などは正直なところ、どこが「不思議な恐怖」なのか?と。自分の読解力不足なんだろうか。また、口うるさく高圧的なクセに、その一方で自分に依存症的な夫から、旅行先でついに腹を据えかねて逃亡しようとする妻の心理を描いた「日照りの中の幕間」などは、
【ここから先ネタバレなので反転させてます】
どこで、どのような破滅なり惨劇なり悲劇なりが訪れるのだろうと半ば期待して読み進めたんだが……結局何なんだこれ。最近よくありがちな、DV夫との共依存にある妻の繰り言を聞かされたようで、正直気分はよろしくない。
とはいえ、
ブラッドベリは、やはりブラッドベリ。
この人の文体や表現法―言葉のきらめきを紙に縫い止めるような魔術―はこの人にしかなし得ないものであって、他の数多の作家がどれほどこの人に憧れ、影響を受けようと、文体を真似てみようと、この作家に代わることは出来ないのだろう。
それこそが「SF界の叙情詩人」と呼ばれる所以なのかと。
有体に言ってしまえばこの作家の文体(というか作品)、個人的にはあまり好みじゃないかもしれない。いくら高名な料理人が丹精込めて作った料理で、他人がどれほど絶賛しようとも、それが「美味しいかどうか」と「好みかどうか」は、自分にとっては別物であるように。
……なーんて言ったらあまりにおこがましいだろうか。
でも、もしも原文で読めるだけの英語力があったのなら、本来の味わいが堪能できたりするのか?なんて考えてもみたりするのであります。
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