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「晩年計画がはじまりました」 [Book - Horror/SF/Mystery]

「トクソウ事件ファイル」の牧野修による、文庫書下ろしのサイコホラー。 

◎「晩年計画がはじまりました」牧野修著(角川ホラー文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
ケースワーカーとして働く茜に、突然“晩年計画が始まりました”という奇妙なメールが届く。さらに、茜はクライアントの首吊り現場に遭遇。窓ガラスには黒々と“晩年計画はじめてください”の文字が……。一方、悪質なストーカー行為に悩む友人・千晶にも同様のメールが送られていた―。これは、命と引き換えに怨みをもった相手に復讐してくれるという“晩年計画協会”の仕業なのか!?底知れぬ悪意のゲームに搦め捕られた茜たちの運命は?

「晩年計画協会」から届いたメールをきっかけに、クライアントの相次ぐ不可解な死に遭遇する茜と、大学4年で就職活動で苦闘する千晶を悩ませるストーカー行為。高校の同級生だった2人の女性の周囲で起こる異様な事件は、かつてクラスメイトだったある女子の名前につながっていくが……。そして己の命と引き換えに、恨みを抱いた相手に死をもたらしてくれるという「晩年計画協会」の正体が次第に明らかにされていく。

 天才的な能力を持った邪悪な狂人―こういうキャラを描かせるとこの作家は抜群に巧い(またその嫌さ加減が何ともw)。なんとなく「トクソウ事件ファイル」に出てきそうな人物造形だなとも感じたが、もしかすると当初はあちらの作品のエピソードで使おうとしたアイデアだったのを膨らませて別の長編に仕立てたのかも?
 さらに、他人から己に対して向けられる妬みや恨み、悪意といったものは往々にして理不尽なものであり、例え今の今までにこやかに会話を交わしていた相手であろうとも一皮剥けば自分に対して激しい憎悪を抱いていても不思議じゃない―そんなことを痛感させられる。
 この著者の作品を読むと往々にして感じることでもあるが。

 ラストは久方ぶりに読むどストレートなバッドエンディングで、後味悪い読後感を愉しませてもらったけれど、さらに「あとがき」での著者の言葉に溜飲が下がる思いがした。

―何か危機的状況にあった時、最悪の場合はどうなるのかを知りたい、という欲求に応えるのがホラーだ。
(あとがきより)

 実際、著者自身も3・11の後は、無力感と絶望に苛まれるあまり悲惨なものを一切見たくなくなって、「不幸」を書くホラーというものが書けなくなり、執筆中だった本作も筆がぱたりと止まってしまったという。迫る期日に逡巡した挙句、納得行かぬまま何とかハッピ-エンドな結末を書き上げて編集者に渡したところ、編集者からの「本来はどうするつもりだったのか」という一言ではっと気付いたという。

―その最悪の場合を経験するのは作中の人物であり、だからハラハラドキドキした後に、読者は胸を撫で下ろしつつ、よかったよかったと思う。ほっと和む。小説や映画の中にあるのはコントロールできる不幸だ。だからこそ我々はそこに救いを見いだす。ホラーにはホラーの要求する文脈があり救済がある。それを無視してもおかしなことになるだけだ。
(あとがきより)

 結果、ラスト1/3を大幅に書き換えたのが完成作なのだとか。 

 あの震災があった後とはいえ、エンタメとしてのホラーというものは本来そうあるべきものだと納得。誤解を恐れずにいうならば、個人的には、『物語のルミナリエ』のコンセプト―その精神を笑う気も毛頭ないし、“いい話”“泣ける話”による癒しの力を否定する気もない―よりもぐっと共感を覚えるのだ。 

 ……自分も相当歪んでいるのかも。

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