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「山の霊異記 赤いヤッケの男」 [Book - Horror/SF/Mystery]

「山岳怪談」という新たな?ジャンルを築いた著者の実話怪談集の文庫版。

「山の霊異記 赤いヤッケの男」安曇潤平著(MF文庫ダ・ヴィンチ刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
山という異界を語る怪談実話集。

著者自ら山で訊き集めた怪異譚集。山の描写も豊かに盛り込まれた全26篇。「その年は冬が厳しくてな。山も例年に比べてずいぶんふぶいていた。(中略)俺は中止を提案したんだが、彼はひとりでも大丈夫といって、重たいキスリングを背負って行っちまったんだ」(表題作より)。文庫化にあたり書き下ろし「ザクロ」を収録。解説は山岳エッセイストとしても知られるみなみらんぼう氏。

 自ら登山を嗜む著者の作品は「怪談実話系」シリーズでこれまでも読んできたが、本書は著者自らの体験や友人、あるいは登山仲間から山小屋での夜語りで聞き集めた怪談26編(文庫化にあたり書き下ろし1編を追加)。

 時代や洋の東西を問わず、山というものに人は愛着や尊崇、畏敬の念を持って対峙して来たが、自然環境という意味に限らず“山”はある種の異界なのだなと思わされる。

 ケルンで封鎖されたはずの尾根道に入り込んで滑落した友人の不可解な死『八号道標』に始まり、山中の平地に残された小型リュックから出てきたもの『アタックザック』、父の友人が吹雪の山中で体験した想像を絶する恐怖を描いた表題作……と主として前半部に、ショッカー的な話、ゾッとさせられる話が続く。その他も『鏡』『笑う登山者』『J岳駐車場』書き下ろしの『ザクロ』『霧の梯子』など大半は正調な恐怖譚、怪異譚が並ぶ。
 だがその一方、山へ向う深夜急行で同席した青年との不思議な邂逅『急行アルプス』、T大山岳部に伝わる、後輩を探すリーダーの話『追悼山行』、著者が頑なにクライミングをやらない理由『カラビナ』など、恐ろしく不可思議ではありながらも、一方でしんみりするような話、著者のまえがきにある「聞き終わって心が温かくなるような」話が各所に置かれ、それが読み進める上でいいアクセントとなって印象を深めている。

「実話系怪談」というジャンルに対して思っていることだが、ここに収まった話の全てが“実際にあった話”だとは思わないし思えない。フィクション、創作と考えてしかるべき話も少なからずある。だが実話“系”と謳っているのだから、そこには実話“っぽい”怪談、実話“的雰囲気で書いた創作”怪談といったものも含まれているのだろう。

 読み進めていて感じた3点ほど。
 まず……この著者が描き出す異界の住人―敢えて“幽霊”とは呼ばずにおこう―が妙に生々しいというか実体感を持っているかのようであること。相手のザックにぶつかって足を踏み外しそうになったり、車内で親しげに歓談する、落としたライターを取りに来る、テントに手や顔をぎゅうぎゅうと押し付けてくる……と、普段自分がイメージするその手の存在の物体的な“存在感”とは異なるもので、うーむ、山はそういった力があるのだろうか(違うな)。ま、これは先に書いた「実話系怪談」だから、ということか。

 次にとにかく登山用語が多いこと。道具や技術面に限らず、地形などを表す場合にも駆使されているので、わかる人ならばその情景が明確に浮かんでくるのだろうが、中学校の遠足で山歩きをして以降、そういった経験の一切ない自分のような門外漢には、そのような表現も今一つピンとこないのだ。最も、それによって怖さが薄れたり緩和されたりすることはないようにも思えたが。

 そしてもう一点―
 登山とは“死”というものが如何に日常的に、薄紙一枚隔ててそこに存在するものであるかということを思い知らされる。それは何もエベルストやマッキンリー、アコンカグアといった世界の名峰と呼ばれる山々だけでなく、その3分の1にも満たない高さの日本の山岳であっても同じことなのだ。

「貴方はなぜ山を目指すのか」
「そこに山があるから(Because it is there.)」

とは英国の登山家ジョージ・マロリーの名言(伝)だが、これほど“死”が身近にあって、なおかつこれらのような恐ろしい体験をしかねないというのならば、自分は今後も登山に挑んだり山歩きをしてみようとは思わない。
 陸サーファーならぬ「街アウトドアマン」で満足ですw

 

 著者の怪談集の第2弾「山の霊異記 黒い遭難碑(幽ブックス)」も既に'10年6月に刊行されている。こちらも例によってw文庫化を待って読んでみるつもり。 

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