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「ジグソーマン」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 大金と引き換えに「右腕」を売ることを持ちかけられた男の運命を描いた、SFホラー長編。

「ジグソーマン」G・ロロ著(扶桑社ミステリー刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
 マイケルは交通事故で妻と息子を亡くして以来、酒におぼれ職を失い、すさんだ路上生活を送っていた。そんな人生に幕を引くべく線路脇に佇んでいた彼の前に、白塗りのリムジンがとまる。現れた男が持ちかけてきた話は驚くべきものだった。
「右腕を一本200万ドルで売らないか?」
 再生医療の権威マーシャル博士が縫合実験用の四肢を求めているというのだ。巨額の誘いに目がくらみ研究所に赴いたマイケルを待ち受ける未曾有の恐怖とは。先読み不能、問答無用の傑作ホラー登場! (解説・風間賢二)

 上記「内容紹介」からもわかるように、この作品はSF作品では定番のマッド・サイエンティストものであり、またフランケンシュタインテーマの変奏ともいえる……そういってしまうと、「ジグソーマン」というタイトルも併せて、ちょっと勘が働く人なら主人公を待つ運命を予見してしまうか。

 ネット上のレビューを見ると、痛い描写、グロさに参るという感想が多い。が、読了した限りでは「そこまで酷いか?」と。
 確かに、主人公マイクたちが見舞われる苛酷な―なんて言葉では生温いほどヒドい―運命、そして人体破壊描写は確かに凄まじいし、マイクらを蹂躙しいたぶりつくす側の狂気ぶり、悪趣味ぶりはまさに「悪役らしい」悪役。
 ……なのだが、何というか物足りない。

 物語はマイクの視点、即ち第一人称の描写で進んでいく。妻と息子の事故死で己を苛み、酒に溺れ続けて全てを失った男にしては、中盤以降精神的、肉体的な苦痛や苦難をこれでもかと次々と味わい(一度は腕を奪われるどころか、※※※と※※のみになってしまうし!)、絶望的な状況にも、精神崩壊や発狂などに至らないマイクの精神がタフ過ぎるというか、どこか冷めているというか。
 それを支えているのが時に憎悪であったり復讐心であったり、あるいは遠く離れてしまった娘を案じる父親の想いだったりするのだが(一人称なので心理描写も多い)、なおさら出来過ぎたキャラ設定のように感じられる。

 悪役側のトップ2人が、狂気や悪趣味を前面に出しながら、それでいて人間的な弱さの側面を垣間見せるのとは、その辺が対照的にも感じられた。悪役ならもっとイカれた動機で狂った研究と凶行を繰り返していいし、悪趣味、変態っぷりももっと暴走したってよかっただろう。マーシャル博士の部下のトップ、嗜虐的な大男ドレイクの嗜好が明らかになる件など、その後も反吐が出そうな描写が続くのかと思ったらそれきりだし(スプラッタ・パンク期の作家/作品はそれを平気な顔してやってたわけで)。
 ま、その辺のところを”変態性”のキャラ要素として扱うのは、今のご時世ではかなり問題あり、ってことだからなんだろうけれども。

 怒りに燃えたマイクが逆襲を開始し、そこからのクライマックスもどこか駆け足気味であっさりしている。中盤から登場、マイクの唯一の味方となる理学療法士の老女ジュニーや、ラスト前に姿を現したマーシャル博士の愛息アンドルーなど、もっと物語に絡ませることで話の奥行きが出来たであろうキャラクターも、その扱いが何とも勿体ない。
 思うにこの著者、きっと真面目な性格なんじゃなかろうか。真面目さ故にハジケきれず、程々のところで終わってしまったようにも思われる、ってのは下種の勘繰りか。
 喩えるなら何というか……具だくさんで見た目は相当にこってりしていそうなのに、いざ食べてみるとスープの味付けや具材、麺の歯応え、香りなど全てがあっさりではなく、今一つ薄いラーメン、という感じ。
 まぁ、もし映画化されたとしたら(計画はされているものの進んでないらしい)、かなりグログロな悪趣味B級スプラッタ・ホラーになること(でもって自分は見ないだろうこと)は、間違いないところだろうが。 

 最終章。
 マイクが己の運命を悟り最後の選択をする段は、そうならざるを得ないだろうということはわかっていたとはいえ、やはり物悲しい。

 扶桑社ミステリーの邦訳作品は、裏表紙に原書(ハードカバー版とかペーパーバック版)の表紙写真が出ているのだが……これ、微妙にネタバレしてるんじゃないかとw 

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