SSブログ

「山の霊異記 霧中の幻影」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 山岳怪談の手練れによる実話系怪談集「山の霊異記」シリーズの4冊目。

「山の霊異記 霧中の幻影」安曇潤平(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
すれ違う登山者に挨拶するたび、返ってくる奇妙な反応に不安を覚えた矢先、ある男の指摘に戦慄する「命の影」。友人と歩く山道で見かける人影の異様さに気づいた瞬間、恐怖に襲われる「ついてくる女」。気さくな女将が饒舌に語る息子の様子と、滞在中姿を見なかった少年からの葉書に震撼する「ぼくちゃん」など16篇。先の見えぬ濃霧、藪に隠れた谷、雪山の足跡―死と隣り合わせの山の怪異を畏怖とともに描く、山岳怪談の決定版。


 単行本の版元が途中でメディアファクトリー→角川書店へ移っているので、前冊の「幻惑の尾根」から文庫も角川文庫に変わっている。既刊の文庫版は過去記事でも採り上げさせてもらっている(1冊は別のレーベル)。

「死霊を連れた旅人」(だいわ文庫 2017年2月)

 著者の年齢や健康状態の関係から、かつての本格的登山から緩めの山歩きや釣りに嗜好が変ったこともあってか、初期の頃のような苛酷な登山の現場での怪談は少なくなっており、それに比例して怪異が起こる前段階の山行の描写が饒舌になっている(3冊目辺りから感じてはいたが)。1冊目の頃のどストレートな怪談を期待すると退屈だが、その辺りは紀行文、エッセーみたいなものと読めば、自分のような門外漢であってもそう悪いもんでもない。

 登山口での待ち合わせで先についていた友人の不可解な態度「石田の背中」、山道での休憩の都度小さな三枚鏡を覗き込む女性「三枚鏡」、山道で自分を励まし案内するように脳内で響く声の正体「声が聞こえる」、箱根―三島を結ぶ古道で遭遇した恐怖「推定古道」など(この著者としては)オーソドックス寄りの山岳怪談もあれば、岩手県遠野を訪れた「河童淵」、山歩きの帰途鎌倉市内で入った時代がかった洋食屋「鎌倉奇談」等の“異界との緩やかな邂逅”をつづったもの、著者自身強烈な体験だったんだろうと思わせる表題作や巻末の「山を這う蟻」など全16篇。

 実話怪談として読んだら創作色が濃すぎて興醒めしてしまうかもしれないが、巻末に収録された夢枕獏氏との対談中でも、著者は

 夢枕 (中略)本に書かれていることはすべて実話なんですか?

 安曇 基本的には、という感じですけどね。他の場所で起こった怪談を「こんな怪談はあの山の景色が似合いそうだな」と組み合わせて一篇にすることもあります。

というように、ある程度の創作や脚色があることを述べている。

 何より山というのは―例え日帰りで登頂して戻って来られるような低山であっても―普段暮らす街中とは隔絶した異界であって(その辺はあの『山怪』を編集した勝峰富雄氏が巻末の解説で詳しく述べている)、そこでは理解を超えるような事、信じ難い事が起きるのもあり得るように思えて来る。
 話の殆どで著者は往路での怪異と遭遇した場合、素直に引き返して山を下りている。その辺りがもしかすると、幾度となく不可解な体験、恐ろしい目にあっても無事でいた理由なのかもしれない。




 Amazonによるとこのシリーズ、単行本では5冊目(「山の霊異記 ケルンは語らず」)が既刊で、文庫版は7月末刊行予定とのこと。

banner_03.gifにほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ ブログランキングに参加しています。
   ↑よろしければ ↑1クリック お願いいたします。

nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

ブログ再開……?「ドイツ怪談集」 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。