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「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」他 [Book - Horror/SF/Mystery]

 作家・宮部みゆきのライフワークとなりつつある”三島屋変調百物語”の第3集。 

「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」宮部みゆき著(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
三島屋伊兵衛の姪・おちか一人が聞いては聞き捨てる変わり百物語が始まって一年。幼なじみとの祝言をひかえた娘や田舎から江戸へ来た武士など様々な客から不思議な話を聞く中で、おちかの心の傷も癒えつつあった。ある日、三島屋を骸骨のように痩せた男が訪れ「話が終わったら人を呼んでほしい」と願う。男が語り始めたのは、ある人物の前でだけ泣きやまぬ童子の話。童子に隠された恐ろしき秘密とは―三島屋シリーズ第三弾!

 6篇を収録。 

  • 第一話 魂取の池
  • 第二話 くりから御殿
  • 第三話 泣き童子(わらし)
  • 第四話 小雪舞う日の怪談語り
  • 第五話 まぐる笛
  • 第六話 節気顔 

 表紙の絵は表題作(第三話)のものと思われるが、その可愛いらしい絵柄に反した陰惨な展開で結末も救いがない。第五話「まぐる笛」も、この”三島屋百物語”でやるか!?と驚かされた怪獣+パニックホラーだが、不死の怪物を退治る役目を受け継いだ者が背負うもの、受け継がぬ者は幸いなのか不幸なのか……という問いかけが重く印象に残る(因みにこの話はこれで既読だった)。その分、第四話「小雪舞う日の怪談語り」の、おちかと、出稼ぎの子供を案じて江戸に現れた村の石仏"おこぼさん"とのやり取りには心が温まる思いがする。怪談会の話でもあるので、そこで語られる4つの話―屋敷の増築で逆さ柱が使われたことで起こる怪異、村の木橋に伝わる奇妙な戒め、母の盲いた右目が持つ〈病を見抜く眼力〉の話、そして死の床についた悪党の傍らに夜毎訪れる黒い影―と、どれも奇譚揃い。
 第二話「くりから御殿」はあの3・11の後に発表された作品であると巻末の解説をあったのを見て、納得。子供の頃に山津波で家族も幼馴染も一度に失った男が時折見る不思議な夢と、独り抱え続けた悲痛な思い。それは自分も過去のある一時囚わた思いと似たものであり、そして亭主に対する女房の言葉に、不覚にもボロ泣きさせられてしまうとは思わなかった。
 第五話「節気顔」は、己の死期が近いことを悟った放蕩男が、二十四節気の日に顔を借す―”この世を去った誰かの顔になる”こととなる。男は自分の役割を果たそうとするが……という、これまでに輪をかけて奇妙な話。後述の”商人風の男”が再登場し、おちかも己の役割、そして彼岸と此岸を往来すると思しき”商人姿の男”についてお思いを巡らしていく。 

 どれも単なる「不思議な話/怖い話」や「いい話」に留まることなく、バリエーション豊かな物語世界を構築している。百物語とするならばこの巻終了時点で未だ1/5であり、今後も引き続き楽しませてもらえると思う。 

 タイトルが”参之続”となっているように、既刊は2冊(単行本としては第4集「三鬼 三島屋変調百物語四之続」が昨年12月に刊行されている)。既読ではあったけれど記事にしそびれていたので、ここでついでに紹介。 

「おそろし 三島屋変調百物語事始」宮部みゆき著(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
17歳のおちかは、ある事件を境に、ぴたりと他人に心を閉ざした。ふさぎ込む日々を、叔父夫婦が江戸で営む袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働くことでやり過ごしている。ある日、叔父の伊兵衛はおちかに、これから訪ねてくるという客の応対を任せると告げ、出かけてしまう。客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていき、いつしか次々に訪れる客のふしぎ話は、おちかの心を溶かし始める。三島屋百物語、ここに開幕!

  • 第一話 曼殊沙華
  • 第二話 凶宅
  • 第三話 邪恋
  • 第四話 魔鏡
  • 第五話 家鳴り

 川崎宿の旅籠の一人娘おちかはある事件によって心を閉ざし、江戸・神田で袋物屋『三島屋』を営む叔父の伊兵衛夫婦の元へ身を寄せ、自ら望んで女中として忙しく働いていた。ある日、急用で家を留守にした叔父夫婦の代役として約束の客を応対することになったおちかは、成り行きから「曼殊沙華の花が怖いのです」と語る、その初老の客の話の聞き役を務めることとなる……”変調百物語”が始まるきっかけが語られる第一話「曼殊沙華」
 第三話「邪恋」で、己の心を苛み続ける惨劇のあらましがおちか本人の口から、先輩女中のおしまが聞き役となって明かされる。第四話「魔鏡」は、眉目麗しい姉弟の道ならぬ恋が家族を崩壊させる。彼らにとり憑き、悲劇へと招いたのは何だったのか。
 そして第五話「家鳴り」は、二話「凶宅」から続く話だが、第一~四話と続く流れに大団円を迎え一つの区切りをつけたようにも思えるし、そこから続く流れを示すようにも。この話でおちかの前に姿を現す、この世ならざる者の”商人姿の男”は、今後もおちかに対峙する敵役?キャラとして暗躍するのか。

「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」宮部みゆき著(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)一度にひとりずつ、百物語の聞き集めを始めた三島屋伊兵衛の姪・おちか。ある事件を境に心を閉ざしていたおちかだったが、訪れる人々の不思議な話を聞くうちに、徐々にその心は溶け始めていた。ある日おちかは、深考塾の若先生・青野利一郎から「紫陽花屋敷」の話を聞く。それは、暗獣〈くろすけ〉にまつわる切ない物語であった。人を恋いながら人のそばでは生きられない〈くろすけ〉とは―。三島屋シリーズ第2弾! 

  •  序  変わり百物語
  • 第一話 逃げ水
  • 第二話 藪から千本
  • 第三話 暗獣
  • 第四話 吼える仏
  •     変調百物語事続

 全て100㌻超の中編4篇に、導入としての「序」、そして後日譚的にある事件が綴られる短編「変調百物語事続」を収録。
 長きに亘り水害から村を守りながらもいつしか顧みられなくなり、挙句封じられた水神が、少年にとり憑き騒動を起こす第一話「逃げる水」
 三島屋の隣家である針問屋住吉屋の一人娘お梅が嫁することとなったが、お梅は事情によりこれまで何度も縁談がダメになっていたという。梅まつりの日も、そして祝言でも影のようにお梅に付き添う頭巾の女。無事に祝言を終えた後、住吉屋の女将でお梅の母お路が《黒白の間》でおちかに語った仔細とは。第二話「藪から千本」は、家にかかった”呪い”、怪異の原因とその祓いの解釈が、どことなく京極堂シリーズに通じるような(と思ったら解説で同じことが書かれてたorz)。お梅に影のように付き添っていた女性、お勝はこの後おちかに乞われ、三島屋で女中として働き、そしておちかの守役を務めることとなる。
 第三話「暗獣」は、三島屋の丁稚・新太が通う手習い所の縁で知り合った若先生・青野利一郎が語る、化物屋敷と噂される屋敷にひっそり棲み、人を恋いながら人と共には生きられぬ暗獣〈くろすけ〉と、その屋敷を隠居先と選んだ老夫妻との温かく、そして切ない交流。
―おまえは孤独だが、独りぼっちではない。おまえがここにいることを、おまえを想う者は知っている。
 老人が別れの際に〈くろすけ〉を諭した言葉は悲しく、優しく、そして力強い。
 この話の序盤に、おちかが若先生と共に出会ったのが自称・偽坊主の行然。その行然は「三島屋の屋根に怪しい暈がかかっている」と言い、その後《黒白の間》で語った、ある隠れ里で起こったある”奇跡”と破滅の顛末ー第四話「吼える仏」は、共同体や集団心理、あるいは信仰といったものが持つ暗い側面にも(隠喩的に)言及しているようで興味深い。
 巻末の短編「変調百物語事続」では第四話の後日譚で、行然が見た”店の屋根にかかった怪しい暈”の正体が明らかになる。
 お勝や若先生、偽坊主、さらには正義感の強い目明し〈黒子の半吉〉親分など、おちかを見守り助ける魅力的なキャラが次々登場し、物語世界が一気に幅を広げた感がある第2集。 

 ところで、第1集「おそろし」は2014年夏に、NHK BSプレミアムでドラマ化されていた(全5回)。

 おちか役を演じた波瑠は、原作に近いイメージで好演だったと思うが、ご存知の通りその翌年下半期の朝ドラで主演しブレーク、一気に大人気女優となったわけで……第2集以降の話もドラマ化してもらいたいと思っても難しいかも。そもそも第3集の巻末時点で、おちかはまだ18歳という設定で、ちょっと年齢的に?か。
 三島屋夫妻役の佐野史郎/かとうかずこ、女中おしま役の宮崎美子他、原作のイメージを損なわない配役、演出だったし、話もおおよそ原作通りに作られていたので、なかなかよかったんだが。
 もしも続編も映像化されるなら、ぜひともお勝=木村多江、黒子の半吉親分=渡辺いっけい でお願いしますw

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