「小説現代」2020年9月号 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介
[特集]真夏の夜の悪夢 超怖い物件――そこに住んではイケない。
「こんな話は、頭で考えても作れない」執筆者の一人はこう語る―。土地に張り付いた怨念は消えない。実話怪談の怖さを味わえる最恐の十編。
大島てる 「倒福」/福澤徹三 「旧居の記憶」/糸柳寿昭 「あつまれ 怪談の日記」/宇佐美まこと 「氷室」/花房観音 「たかむらの家」/神永学 「妹の部屋」/澤村伊智 「笛を吹く家」/黒木あるじ 「牢家」/郷内心瞳 「トガハラミ」/平山夢明 「ろろるいの家」
・その他(略)
事故物件に住んだ芸人の体験談を基にしたホラー映画が公開され、同テーマのホラーアンソロジーが話題になったりと、ある意味では今夏の怪談・ホラーのトレンドにもなっていた「物件」ホラー。住む場所というものはどんな人間にとっても、どんな形であれ何らかの関りがあり、記憶があるものだから、そこに起こる怪異や恐怖、不思議な体験もまた身近に感じられるんだろう。もちろん、近年何かと話題に上る事故物件公示サイトの存在も大きいのだろうが(その管理人が今回寄稿している)。
今号はこのテーマで10篇掲載。併せてシンガーソング・ライターの大塚愛による小説家デビュー作、しかもホラー短篇が掲載されているということで、こちらも。
・旧居の記憶(福澤徹三)
・あつまれ 怪談の日記(糸柳寿昭)
・氷室(宇佐美まこと )
・たかむらの家(花房観音)
・妹の部屋(神永学)
・笛を吹く家(澤村伊智)
・牢家(黒木あるじ)
・トガハラミ(郷内心瞳)
・ろろるいの家(平山夢明)
他の特集、ドラマの原作連載等はとりあえず保留。気が向いた時に読んでみようか。
「怪獣生物学入門」 [Book - Public]
◆内容紹介(表紙見返しから)
ゴジラ、ガメラ、マタンゴ、ドゴラ、『寄生獣』のパラサイトなどなど、怪獣たちは日本のSFを牽引し、最近では海外での評価も高まっている。その一方で、怪獣たちは荒唐無稽な作り物のように思われてはいないか。怪獣とはどのような生物なのか?その形態や劇中の設定、登場人物たちの台詞などを手がかりに、生物学的な視点で徹底的に考察していく。そこから見えてきたのは、科学とSFを繋ぐ新たな発見だった。
恐竜と怪獣の違いは何か、ゴジラに通常兵器が無効な理由、ゴジラの生息場所と"地球空洞説"、シン・ゴジラの乱杭歯の理由、キングギドラの形態学といった話から、映画『マタンゴ』に登場するキノコ化した人間であるマタンゴ、『寄生獣』のミギー、東宝映画の宇宙怪獣ドゴラ(これ、ドイル『大空の恐怖』じゃないの!と思ったら言及されてた)といったものまで幅広く俎上に上げられている。
怪獣映画で時折論じられる「スケール問題(あれだけ巨大化した生物は自重に耐えられず崩壊するという論)」については「進化の厳密なルール下にある生物が、環境や生体としてのキャパを無視して巨大化方向へ進化することはあり得ない」と断じ、怪獣映画にスケール問題を持ち出すこと自体の矛盾を指摘している点は面白い……が、山本弘のSF小説 『MM9』(創元SF文庫)シリーズで―作品世界において怪獣が出現する根拠としてー言及された"多重人間原理"についても触れてみてくれたらより面白かった、と思うのは欲張り過ぎか。
終章はウルトラ怪獣から4つほど採り上げているが、この辺はちょっと駆け足気味かつ蛇足気味だったような気がしないでもない。
何れにせよこういう、怪獣やモンスターといったホラ話を、形態進化生物学という学問に基づいて大真面目に考察するというのは、これも一つの知の遊戯という感じがしていて面白い。これは単に現実的には存在し得ない、荒唐無稽っぷりをあからさまに批判することを目的としたのではなく、著者本人がそういった存在が好きだったからこそ、怪獣への愛着がしっかりと現れているためだろう。
「深層地下4階」 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介(裏表紙から)
前科持ちのティーケイクは、いつも通り貸倉庫の夜勤シフトに入っていた。ふと気づくと、壁の奥からかすかなブザー音が聞こえる。発信源を突き止めるため、同僚のナオミとともに壁をぶち破ると、そこにはブザー音と異常を知らせるランプが点滅する、存在しえない深層地下階の図面パネルがあった。それは40年前、小さな町を全滅させるほどに進化した生体が極秘に封印されている場所だった……。
物語は冷戦終結前の1987年、ロベルトとトリーニ、2人のアメリカ軍将校がある生物のサンプルを政府の貯蔵施設の奥底に保管するために向う描写から始まる。
彼らはそのしばらく前、西オーストラリアにある辺境の町からの通報により、一人の女性微生物学者と共に現地へ渡っていた。彼女は'70年代のNASAの宇宙ステーション(スカイラブ)計画の過程の中で、宇宙に運ばれたある菌類―真菌類生物がスカイラブの残骸と共に地球へ戻ったのだと語り、さらに高レベルの遺伝子構造の変化によって新種の生物―コルディセプス・ノヴァスが誕生したのだと推測する。
―最終的に、ロベルトとトリーニは大きな犠牲を払いつつ、コルディセプス・ノヴァスを壊滅した町ごと焼き払い、極微量の標本をアチソン洞窟の政府貯蔵施設の深層地下4階に封印する……ここまでが約70ページほどのプロローグ部分。
本筋はそれから32年後の2019年、アチソン洞窟の貯蔵施設は既に民間に売却され、一般向けの貸倉庫となっていた。封印された真菌の存在は次第に忘れ去られ、なかったものとなっていた。
壁の中には複雑な計器パネルと警告を告げる点滅ランプ、そしてこの貸倉庫には存在しない深層地下4階を示す図面パネルが現われる。二人はその深層地下4階まで降りてみることにする。
その後、地下深く封印されていた筈のコルディプス・ノヴァスが異常な進化能力によって既に封印から逃れ地上へと現れていたことが描かれ、ナオミの元夫、ティーケイクらの上司グリフィンやその仲間、貸倉庫の顧客の一人の老婦人ルーニー、さらには既には退役していたロベルトらも巻き込んだ地獄の一夜となる……。
ジャンルとしてはバイオ・ホラーになるんだろう。真菌生物であるコルディセプス・ノヴァスだが、このモンスターっぷりが凄まじい。宿主となる高等生物(人間その他の哺乳類、昆虫etc)に取り付くと急速に体内を移動、脳に寄生して急激に増殖し宿主をコントロール下に置き、最後には宿主の身体内に充満、破裂してより増殖しようとする。学習能力を持ち(脳も意識もないのに)、さらには自らの構造を変え化学物質を構成していく共生体を持つため、様々な障壁も突破してしまうというチートぶり。感染した生物は、死体であろうとこの真菌によってゾンビの如く動かされ、自らをばらまくために利用されることとなる。何となく「ガメラ2」のソルジャーレギオンとレギオン草体(プラント)を思い出した。ソルジャーとプラントはあくまで別個体であり、爆発して種をばら撒くのに対し、こちらの真菌は宿主を破裂させて自らをばら撒くのだが。
この辺りの解説は研究者などの登場人物の口から語らせるのでなく、あくまでも作者―神の視点から描写されるので、「増える」という本能だけで個/総体としての意識や知能、そもそも脳すらないはずの真菌が、一個の意志を持った怪物のようにも思えて来る。登場人物たちの描写が続く中に、怪物自身のモノローグが挿入されるのはホラー(ミステリなら犯人)で時折見受けられるパターンだが、本作ではプロローグの段階でこの怪物がどんなものなのかある程度明確にわかってしまうので、感染したら100%死ぬというヤバさは印象付けられるが、一方で「相手が何なのかわからない怖さ」という点は削がれてしまったようにも思える。
登場人物についてはかなり書き込まれており、特にティーケイクとナオミ、そして退役軍人のロベルトについては……現代社会における種々の問題も含め、特に丹念に書き込まれている(ラストで活躍するのかなと思った人物が途中であっさり退場してしまう面もあるが)。
真菌による感染(寄生)というキーワードがあるので、ある程度大規模なパニックが起きることを期待したのだが、人物描写に紙数を割いたからか、事件規模や関わる人物は案外コンパクトな印象。これは著者が映画を多く手掛けた脚本家だったことから、映像化した際の尺を無意識のうちに考慮していたのかも。そう考えてみると、様々な場面が全て具体的にイメージしやすい(頭の中で映像化しやすい)のも、著者の腕なんだろう。
ラストは一気に畳み掛けるというより、力づくで強引にカタを付けたという感じ。これはストーリ自体もそうなのだけれど、色々な面でアメリカらしいよねと思える一方で、この最終手段を実際に(作中で)用いたフィクションって実はさほど多くないんじゃないかと(宇宙方面は別にして)。いずれにせよ日本じゃ絶対に不可能だが。
「ファンタジーへの誘い 海外SF傑作選9」 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介(裏表紙から)
茫漠たる宇宙に於ける人間という小さな存在。
その大いなる孤独をSFならではの手法で描くファンタジー13篇。
同シリーズは元々、日本SF界の巨人の一人、福島正実氏の編纂により1973年に芳賀書店から全10巻で刊行されていたもので、これを再編してまとめたのがこの講談社文庫版の第1~8巻だった。福島氏が1976年に急逝した後伊藤典夫氏がバトンを引き継いだものがこの9巻であったらしく、文庫オリジナルとなる。【8/10一部訂正】
ファンタジーと聞くとどうしても魔法使いやらドラゴンやら勇者やら中世ヨーロッパ的風景描写やら……それこそドラクエや「ロード・オブ・ザ・リング」みたいなイメージを想い起こしてしまい(その発想が死ぬほど安直なことは百も承知で)どうも苦手というか食わず嫌いなところがあって避けてしまうところがあった。が、今回はSF傑作選の1冊であり、他巻の収録作も比較的面白く読めたものが多かったので、ものは試しとばかりに。
全13編収録。
・不可視配給株式会社(B・W・オールディス)
・大いなる旅(フリッツ・ライバー)
・この卑しい地上に(フィリップ・K・ディック)
・ふるさと遠く(W・S・テヴィス)
・十三階(ウィリアム・テン)
・闇の旋律(C・ボーモント)
・順応性(C・エムシュウィラー)
・街角の女神(M・セント・クレア)
・みにくい海(R・A・ラファティ)
・名前の掟(A・K・ル・グウィン)
・きょうも上天気(J・ビクスビィ)
・ゲイルズバーグの春を愛す(ジャック・フィニィ)
読了してみると、自分が持っていたファンタジーという言葉のイメージが偏狭だったことに気付かされる。もちろんSF傑作選の中で選定された作品だからということもあろうが、予想以上に愉しめたという感想。
「世界SF傑作選」はこれで手持ち分の8冊を読了。他の巻も暇を見て感想などまとめてみようかと。