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「M.R.ジェィムズ怪談全集〈2〉」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 近代英国怪奇小説の三巨匠の一人、ジェイムズの怪談全集(分冊の第2巻)

「M.R.ジェィムズ怪談全集〈2〉」編訳)紀田順一郎(創元推理文庫)

◆内容紹介(裏表紙から)
M.R.ジェイムズの怪談に描かれる恐怖はいずれも鮮烈で、幽霊や妖怪はその手で触れてきそうなほどになまなましい。第2巻には、古書市で競り落とした日記が招く恐怖を描く傑作「ポインター氏の日記帳」、現実の事件を暗示する人形劇の悪夢「失踪綺譚」など後期の作品に、本邦初訳の未刊作品を加え、21篇を収録。どうぞ枕頭に備え、眠れぬ夜には恐怖を心ゆくまでお愉しみあれ。


 7月に読了した第1巻と併せた創元版の2冊が、著者存命中(1931)に出版された1冊版全集を新たに訳したもので、今回の第2巻は後期の短編集『痩せこけた幽霊』『猟奇への戒め』の2冊に、拾遺編、そして原本に未収録のもの、後に遺稿が発見されたもの等6編らが収録されている。


痩せこけた幽霊
ホイットミンスター寺院の僧房
 僧房に転居してきたオールディス博士とその姪。それから間もなく、博士は寝室で異様なことが起こるのに気付く。それは100年以上前にその僧房で起きた悲劇に起因していた。2部構成的な短篇。前半に登場する少年が何とも薄気味悪い
ポインター氏の日記帳
 地誌研究のため古書市で入手した古い日誌。その中に留めてあった布の端切れを元にカーテンを作ったことで起こる怪異。日誌そのものでなく、それに挿まれた布地が怪異を招くのが面白い。『怪奇小説傑作集1』(創元推理文庫)にも収録されているが、ラストは平井呈一の訳文よりこちらの方がわかりやすい
寺院史夜話
 中世の教会内に置かれた墓碑にまつわる因縁話
失踪綺譚
 伯父が失踪したことを伝える女性の数通の手紙。女性は残酷な人形劇の奇妙な夢を見たことを記していたが……。人形劇と(物語中で)実際に起きた事件との関連が今一つわかり難い
二人の医師
 二人の医師の相次ぐ奇妙な死にまつわる話。解説にある通り、語られるべきものが(意図的にか)かなり抜けているようで、これも今一つわかり難い

猟奇への戒め
呪われた人形の家
 デイレット氏が骨董商から購入したゴシック趣味のドールハウス。彼はその夜、忌まわしい過去の再現をミニチュアの人形たちが演じるのを目撃する。著者自身が「銅版画」(全集1収録)との類似を述べているが、映像ではなく人形たちが過去を演じるというのが面白い
おかしな祈祷書
 何度閉じて覆いを掛けても同じ詩篇の箇所で開かれてしまうという礼拝堂の祈祷書。ひょんなことからそれを目にしたディヴィッドスン氏は、祈祷書にまつわることを調べて礼拝堂を再訪するが、祈祷書は全てすり替えられていた。因縁がまつわる書物というジェイムズ作品の定番モチーフに、それが誰かによってすり替えられていたというミステリ的要素が加わっているのが興味深い……のだが、謎解きやすり替えた犯人との対決みたいなものがなく、何ともあっさり終わってしまったのが少々物足りない
隣の境界線
「私」は友人の地所内のある丘で生身の人間のものとは思えぬ恐ろしい叫び声を耳にする。その丘はかつて友人の父親の指示で森が切り払われており、その森は付近の住民も避ける言い伝えがあった。曰く付きの森というモチーフに実際の訴訟事件を素材として絡めているが……怪異の原因がえ?これですか?という感じ
丘からの眺め
 変わり者の好古家でもあった時計屋が作ったという双眼鏡。それを覗くと実際には見えない、何とも忌まわしい景色が見えるのだった。古の呪物ではなく、変人が作った悍ましい器物。いやホント悍ましい。
猟奇への戒め
 友人とのイングランドの東海岸への旅先で遭遇した神経質そうな若い男性。彼は伝説にある宝冠を発見してしまったが、それを何とか元の場所に返したいのだと語る。執筆は1925年だが、その3年前にツタンカーメン王の墓が発見され、その発掘に携わった人間が次々に亡くなる……いわゆる「王家の呪い」が流布(実際は殆どが誇張とでたらめだが)された頃なので、それがヒントになってたのかもと勝手な邪推
一夕の団欒
 おばあさんが孫たちに語って聞かせる、近所のある小径で黒苺を摘んではいけない理由。
【ネタバレ】悪魔崇拝をしていた者たちが陰惨な死を遂げたとなれば、忌まれた土地になるのは当然か

拾遺編
ある男がお墓のそばに住んでいました
 シェークスピア作品の一節を元にジェイムズが書き上げた墓泥棒が報いを受ける話。古典的な怪談の語りのオチの付け方は古今変わらぬようで。
 旅先の居心地のいい宿には、しかし一部屋開かずの部屋があった。好奇心に駆られたトムソン氏は、手持ちの鍵でその部屋の中を入ることを試みるが……。好奇心は猫をも殺す。いや、いくら「開かずの部屋」でもそんなもん置いてちゃいかんでしょ。ラストは「笛吹かば現れん」と同じパターン。
真夜中の校庭
 真夜中の散歩中だった「私」と梟の奇妙な語らい。著者の母校であり校長として勤務したイートン校の風景が描かれたファンタジー風掌編
むせび泣く泉
「泉に近付くな」という老人の忠告に逆らった札付きの不良学生とその仲間に起こった惨劇。ジェイムズによる吸血鬼ものの変奏とも言えるか。冒頭でこの不良生徒と容姿のよく似た優等生が登場するのだが、そこから読むとポー「ウィリアム・ウィルソン」的な話になるかと予測したのだがそうはならず。その点や楽屋落ちが多いのも、元々キャンプで学生向けに朗読するため書かれたもの(解説より)だからか。
私が書こうと思っている話
 タイトル通り著者による創作ノートのようなもので、文中のアイデアの2つが作品化(後段の「フェスタントンの魔女」「暗合の糸」)されているという。最後が少々メタフィクション風になっているのは著者の遊びゴコロだろう。

未刊作品
小窓から覗く
 少年時代を過ごした牧師館の庭。猟園とを隔てる植込みの木戸越しに佇む不気味な人物の夢に何度もうなされていたが―。遺作であり、未定稿だったものが活字になったものとのこと
死人を招く―大晦日の怪談
 大地主が急死した。遺体は納骨堂に安置せず、棺桶も使わずに墓地の北側にすぐに埋葬するように―というのが故人の奇妙な遺言だったが。原題 The Experiment は降霊術を意味するものだそうで、察しのいい読者はそれで予想がつくのかも
無生物の殺意
 バートン氏は朝から些細な失敗続きで機嫌が悪かった。彼と長年仲違いをしていた人物の死亡記事が新聞に出ていても気分は晴れず、友人に誘われて散歩に出てもついてないことばかりだった。タイトルの"無生物"は正確には"人間以外"ということだろう。序盤に譬えとして書かれた昔話は日本の「猿蟹合戦」を思い出すが、これは明確な復讐譚であるのに対し、あちらのは不条理極まりない話であるのも妙に面白い

 ここからの三作は大学図書館に埋もれていた草稿をジェイムズ研究家が発掘、遺族の承諾を得て公開した作品とのこと。
フェスタントンの魔女
 18世紀初期のケンブリッジ大学。密かに黒魔術に傾倒していた2人の研究生が、前日に処刑され埋葬された魔女の遺体を手に入れようとし―。先述の「私が書こうと思っている話」中のアイデアの一つ。当時の大学の史実も取り入れているとのこと
暗合の糸
「奇妙な偶然」がテーマ。ラストで記された落丁の意味するものは……?
キングス・カレッジ礼拝堂の一夜
 大学礼拝堂のステンドグラスに描かれた(聖書中の)人物たちが真夜中に生き生きと動き出す―というファンタジー。聖書の知識があるとより楽しめるのだろう

〈1〉に収録された作品と比較すると、後年の作品であること、さらに未定稿だったもの等が混じっているためかやや散漫だったり、あるいはわかり難かったり辻褄が合わないような印象の作品もある。一方で「私が書こうと思っている話」は怪談の書き手としての著者の顔が垣間見えて面白いし、「真夜中の校庭」「キングス・カレッジ礼拝堂の一夜」は、従来の怪談のイメージとは異なったジェイムズ作品として、これまた興味深い。




 ジェイムズの全集は光文社古典新訳文庫で出たばっかりですけど、せっかくだしこちらも2冊揃って復刊させませんか、東京創元社さん。


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