「恐怖のハロウィーン」 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介(裏表紙から)
ハロウィーンは三つの分野で文学に影響を与えている。ミステリでは、ハロウィーンの雰囲気はすでに与えられているサスペンスを高める役割を持っている。ファンタジーでは、祭典とは不可分の魔女、小鬼、悪魔に深く根をおろしている。ホラーでは、その日にまとわりつく悪の臭気を利用している(編者序文より)。巨匠アシモフが十月三十一日、万霊節前夜(ハロウィーン)の戦慄をテーマに選び抜いた珠玉アンソロジー十三編。
表紙には編者としてアシモフの名前だけだが、実際はアンソロジストとして名高いM.H.グリーンバーグやキャロル=リン.R.ウォーらとの共編らしい。このメンツでの恐怖小説アンソロジーというと、新潮文庫から出ていた「クリスマス13の戦慄 」、「バレンタイン14の恐怖 」を以前読んでいたことがあった。なんでこれも新潮文庫から出なかったのかとも思ったが、文庫版の刊行は34年前の1986年。当時はハロウィーンという慣習(イベント)について日本では今ほど馴染みがなかったから、見送りになったのかも。
読み進めていくと、タイトルからイメージするような怪奇幻想やホラーばかりでなく、ミステリもいくつか含まれていることに気付く。これは上述の「クリスマス13の戦慄」など、編者が共通するアンソロジーにも言えることで、そういう編集方針だったのだろうなと。
以下、簡単な感想など。
……ハロウィーンの起源や元々の意味は置いといて。
「ダーク・ロマンス《異形コレクション49》」 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介(裏表紙から)
九年ぶりの復活!新たな伝説の始まりです。
闇を愛する皆様、
闇のなかで燦めく「想像の力」を信じる皆様、
怪奇と恐怖、幻想と驚異、人外の唯美……。言葉の力で現実を超えようとする小説の作者と読者の皆々様、
そして、なによりも……異形の短篇小説を愛してくださる皆様。
お待たせいたしました。
四十九冊目の《異形コレクション》をお届けします。 (編集序文より)
復刊第1弾(通巻で第49巻)のテーマは『ダーク・ロマンス』。23年前の創刊第1巻のテーマが『ラヴ・フリーク(異形の恋愛)』を思い出し、それとの関連を思い浮かべてしまったのだが、編集序文によると「モードの世界におけるトレンドの《ダーク・ロマンス》」がモチーフであり、かつロマンスという語句自体、元来は中世に"ロマンス語"で書かれた「空想・冒険・伝奇的物語」であったらしい。そういったことを含め、もっと広義の―まさしく「異形コレクション」そのものと言えるようなテーマ、なのだとか。
参加作家もシリーズ草創期からの常連陣から、休刊中にデビューを飾った若手まで幅広い。「《異形》を読んで育った」というような若い作家が参加しているというのも、シリーズ自体が長命であること、そして眠りの期間が短くも長かったことを示しているのだろう。
本を開く。まず伯爵―井上氏の前口上が何とも懐かしく、そして嬉しい。
Twitterで「9年の飢えを充たすべくゆっくり堪能したい」なんて呟いてしまったが、期待値を数倍超えるような満足感だった。特に冒頭からの5、6篇はこういうのが読みたかった!と自分のツボにびしりとハマってくれるような作品ばかりで、読者以上に執筆された作家さんの方々が今回の復活を喜び、筆を揮ったんではなかろうか、なんてことも思えて来る。
空白の9年の飢えは充たされた。しかし困ったことがある。
続刊が早く読みたいという、新たで懐かしい飢餓感を覚えてしまったこと。
幸いなことに来月に復刊第2巻(書物がテーマとか)が早くも予告されている。
「M.R.ジェィムズ怪談全集〈2〉」 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介(裏表紙から)
M.R.ジェイムズの怪談に描かれる恐怖はいずれも鮮烈で、幽霊や妖怪はその手で触れてきそうなほどになまなましい。第2巻には、古書市で競り落とした日記が招く恐怖を描く傑作「ポインター氏の日記帳」、現実の事件を暗示する人形劇の悪夢「失踪綺譚」など後期の作品に、本邦初訳の未刊作品を加え、21篇を収録。どうぞ枕頭に備え、眠れぬ夜には恐怖を心ゆくまでお愉しみあれ。
◎猟奇への戒め
◎拾遺編
◎未刊作品
〈1〉に収録された作品と比較すると、後年の作品であること、さらに未定稿だったもの等が混じっているためかやや散漫だったり、あるいはわかり難かったり辻褄が合わないような印象の作品もある。一方で「私が書こうと思っている話」は怪談の書き手としての著者の顔が垣間見えて面白いし、「真夜中の校庭」「キングス・カレッジ礼拝堂の一夜」は、従来の怪談のイメージとは異なったジェイムズ作品として、これまた興味深い。
ジェイムズの全集は光文社古典新訳文庫で出たばっかりですけど、せっかくだしこちらも2冊揃って復刊させませんか、東京創元社さん。
「小説現代」2020年9月号 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介
[特集]真夏の夜の悪夢 超怖い物件――そこに住んではイケない。
「こんな話は、頭で考えても作れない」執筆者の一人はこう語る―。土地に張り付いた怨念は消えない。実話怪談の怖さを味わえる最恐の十編。
大島てる 「倒福」/福澤徹三 「旧居の記憶」/糸柳寿昭 「あつまれ 怪談の日記」/宇佐美まこと 「氷室」/花房観音 「たかむらの家」/神永学 「妹の部屋」/澤村伊智 「笛を吹く家」/黒木あるじ 「牢家」/郷内心瞳 「トガハラミ」/平山夢明 「ろろるいの家」
・その他(略)
事故物件に住んだ芸人の体験談を基にしたホラー映画が公開され、同テーマのホラーアンソロジーが話題になったりと、ある意味では今夏の怪談・ホラーのトレンドにもなっていた「物件」ホラー。住む場所というものはどんな人間にとっても、どんな形であれ何らかの関りがあり、記憶があるものだから、そこに起こる怪異や恐怖、不思議な体験もまた身近に感じられるんだろう。もちろん、近年何かと話題に上る事故物件公示サイトの存在も大きいのだろうが(その管理人が今回寄稿している)。
今号はこのテーマで10篇掲載。併せてシンガーソング・ライターの大塚愛による小説家デビュー作、しかもホラー短篇が掲載されているということで、こちらも。
・旧居の記憶(福澤徹三)
・あつまれ 怪談の日記(糸柳寿昭)
・氷室(宇佐美まこと )
・たかむらの家(花房観音)
・妹の部屋(神永学)
・笛を吹く家(澤村伊智)
・牢家(黒木あるじ)
・トガハラミ(郷内心瞳)
・ろろるいの家(平山夢明)
他の特集、ドラマの原作連載等はとりあえず保留。気が向いた時に読んでみようか。
「深層地下4階」 [Book - Horror/SF/Mystery]
◆内容紹介(裏表紙から)
前科持ちのティーケイクは、いつも通り貸倉庫の夜勤シフトに入っていた。ふと気づくと、壁の奥からかすかなブザー音が聞こえる。発信源を突き止めるため、同僚のナオミとともに壁をぶち破ると、そこにはブザー音と異常を知らせるランプが点滅する、存在しえない深層地下階の図面パネルがあった。それは40年前、小さな町を全滅させるほどに進化した生体が極秘に封印されている場所だった……。
物語は冷戦終結前の1987年、ロベルトとトリーニ、2人のアメリカ軍将校がある生物のサンプルを政府の貯蔵施設の奥底に保管するために向う描写から始まる。
彼らはそのしばらく前、西オーストラリアにある辺境の町からの通報により、一人の女性微生物学者と共に現地へ渡っていた。彼女は'70年代のNASAの宇宙ステーション(スカイラブ)計画の過程の中で、宇宙に運ばれたある菌類―真菌類生物がスカイラブの残骸と共に地球へ戻ったのだと語り、さらに高レベルの遺伝子構造の変化によって新種の生物―コルディセプス・ノヴァスが誕生したのだと推測する。
―最終的に、ロベルトとトリーニは大きな犠牲を払いつつ、コルディセプス・ノヴァスを壊滅した町ごと焼き払い、極微量の標本をアチソン洞窟の政府貯蔵施設の深層地下4階に封印する……ここまでが約70ページほどのプロローグ部分。
本筋はそれから32年後の2019年、アチソン洞窟の貯蔵施設は既に民間に売却され、一般向けの貸倉庫となっていた。封印された真菌の存在は次第に忘れ去られ、なかったものとなっていた。
壁の中には複雑な計器パネルと警告を告げる点滅ランプ、そしてこの貸倉庫には存在しない深層地下4階を示す図面パネルが現われる。二人はその深層地下4階まで降りてみることにする。
その後、地下深く封印されていた筈のコルディプス・ノヴァスが異常な進化能力によって既に封印から逃れ地上へと現れていたことが描かれ、ナオミの元夫、ティーケイクらの上司グリフィンやその仲間、貸倉庫の顧客の一人の老婦人ルーニー、さらには既には退役していたロベルトらも巻き込んだ地獄の一夜となる……。
ジャンルとしてはバイオ・ホラーになるんだろう。真菌生物であるコルディセプス・ノヴァスだが、このモンスターっぷりが凄まじい。宿主となる高等生物(人間その他の哺乳類、昆虫etc)に取り付くと急速に体内を移動、脳に寄生して急激に増殖し宿主をコントロール下に置き、最後には宿主の身体内に充満、破裂してより増殖しようとする。学習能力を持ち(脳も意識もないのに)、さらには自らの構造を変え化学物質を構成していく共生体を持つため、様々な障壁も突破してしまうというチートぶり。感染した生物は、死体であろうとこの真菌によってゾンビの如く動かされ、自らをばらまくために利用されることとなる。何となく「ガメラ2」のソルジャーレギオンとレギオン草体(プラント)を思い出した。ソルジャーとプラントはあくまで別個体であり、爆発して種をばら撒くのに対し、こちらの真菌は宿主を破裂させて自らをばら撒くのだが。
この辺りの解説は研究者などの登場人物の口から語らせるのでなく、あくまでも作者―神の視点から描写されるので、「増える」という本能だけで個/総体としての意識や知能、そもそも脳すらないはずの真菌が、一個の意志を持った怪物のようにも思えて来る。登場人物たちの描写が続く中に、怪物自身のモノローグが挿入されるのはホラー(ミステリなら犯人)で時折見受けられるパターンだが、本作ではプロローグの段階でこの怪物がどんなものなのかある程度明確にわかってしまうので、感染したら100%死ぬというヤバさは印象付けられるが、一方で「相手が何なのかわからない怖さ」という点は削がれてしまったようにも思える。
登場人物についてはかなり書き込まれており、特にティーケイクとナオミ、そして退役軍人のロベルトについては……現代社会における種々の問題も含め、特に丹念に書き込まれている(ラストで活躍するのかなと思った人物が途中であっさり退場してしまう面もあるが)。
真菌による感染(寄生)というキーワードがあるので、ある程度大規模なパニックが起きることを期待したのだが、人物描写に紙数を割いたからか、事件規模や関わる人物は案外コンパクトな印象。これは著者が映画を多く手掛けた脚本家だったことから、映像化した際の尺を無意識のうちに考慮していたのかも。そう考えてみると、様々な場面が全て具体的にイメージしやすい(頭の中で映像化しやすい)のも、著者の腕なんだろう。
ラストは一気に畳み掛けるというより、力づくで強引にカタを付けたという感じ。これはストーリ自体もそうなのだけれど、色々な面でアメリカらしいよねと思える一方で、この最終手段を実際に(作中で)用いたフィクションって実はさほど多くないんじゃないかと(宇宙方面は別にして)。いずれにせよ日本じゃ絶対に不可能だが。