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「戦都の陰陽師」 [Book - Horror/SF/Mystery]

「忍びの森」の著者が描く伝奇アクション長編、第2弾。

◎「戦都の陰陽師」武内涼著(角川ホラー文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
時は戦国。不穏な戦雲におののく京の都に、無数に張られた結界を破って六百年ぶりに恐るべき天魔が侵入、魔界への口を開こうと画策していた。大陰陽師・安倍晴明の末裔である土御門家の姫・光子(ひかりこ)は、唯一天魔を討つことができる出雲の霊剣・速秋津比売(はやあきつひめ)の剣を取りに行くことを決意。藤林党の若き惣領・疾風ひきいる伊賀の忍び七人を護衛とし、出雲への危険な旅に出発する。はたして光子は都を救えるのか!?新説・陰陽師物語!

 出雲より京へ霊剣を持ち帰らんとする光子らに対し、それを阻止して霊剣を奪わんとする魔族。彼らは中国地方を治める毛利家、そして毛利家を恨む尼子の残党らを唆し、権勢や力を欲する彼らの心につけ入って、光子らを亡き者にせんと企てる。
 500余ページのボリュームあるストーリーの7割以上は、霊剣を我が物とせんと狙う諸将が繰り出す追っ手との熾烈な戦いを続けながらの、京―出雲間の苛酷な旅にページが割かれている。

 史実に残る人物も少なからず登場し、さらには敵方にも様々な事情や裏があるなして、読んでいても冗長さがなく飽きさせないが、かえって色々盛り込み過ぎの感もなきにしもあらず。例えば―上下巻にするなどして物語をさらに長くするならばもっと巧く使えそうなのに、展開上早々退場せざるを得ないという、好キャラクターの無駄遣い的なことや、逆に登場してページ数を割かれることにあまり必然性を感じない実在の武将など。
 前者なら尼子方の忍者・笛師銀兵衛や出雲安倍家の巫女・妙であり、後者なら尼子家の忠臣と名高い山中鹿之助だろう。

 後者に関しては、この著者は忍者が大好きな一方で織田信長が相当に嫌いらしいことは、前作及び今作を読んでいるとひしひしと伝わってくるので、信長に見捨てられる形で毛利氏に滅ぼされた悲運の武人としての鹿之助を「好漢」として登場させたかったのだろうか、と見るのは勘繰り過ぎか。

 主人公が若く美しい陰陽師の姫君、土御門光子だけに、そういったのが登場する昨今のラノベやアニメ、ゲーム的キャラ造形なのかとも嫌な予感もあったけれど(書店で表紙のイラストを見た際にもその類の作品なのかと思い、購入をしばし躊躇したくらいだったw)、そこまで濃いわけでもなく、読んでいて苛立つこともない。また道中の光子を護る7人の伊賀忍者にしても、「忍びの森」の忍者ほどには強烈なキャラ立ちはしていないが故に、かえって主人公に仕える影としての存在感が出て、読んでいても頼もしい。
 前作を「ヒーロー戦隊の文脈で書かれたもの」との感想を述べたが、それに倣うなら今作は……「白雪姫と7人のこびと」でもないしw、性別や人数は違えど、旅をする主従ということでいえば「西遊記」とか……違うなぁ。

 なかなかのボリュームながら予想以上に愉しめた一編。この著者の次回作が同様に伝奇アクションなのかはわからないが、今後もチェックしたい作家ではある。

 

 但し……褒めておきながら瑕疵をあげつらうのも何だが、時折挿入されるあからさまな近代文明批判、権力者に対する強い口調の糾弾は―主張は理解できないことでもないが―本筋からも浮いているし、やや陳腐というか青臭く感じられてしまう。その辺がやや残念。

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