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「ダーク・ロマンス《異形コレクション49》」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 9年余の眠りから目覚めた伝説の書き下ろしアンソロジー・シリーズ、待望の復刊第1弾。

「ダーク・ロマンス ≪異形コレクション49≫」監修)井上雅彦(光文社文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
九年ぶりの復活!新たな伝説の始まりです。
闇を愛する皆様、
闇のなかで燦めく「想像の力」を信じる皆様、
怪奇と恐怖、幻想と驚異、人外の唯美……。言葉の力で現実を超えようとする小説の作者と読者の皆々様、
そして、なによりも……異形の短篇小説を愛してくださる皆様。
お待たせいたしました。
四十九冊目の《異形コレクション》をお届けします。 (編集序文より)


「異形コレクション」が今秋に復活することを知ったのは、監修者である井上雅彦氏の8月頃のツィッターにて。'97年の創刊からずっと読み続け愉しんでいたシリーズだけに、2011年の48巻『物語のルミナリエ』を以て長い眠り……休刊状態に入ったのは(3.11という未曽有の事態があったが故であるが)残念に思っていた。その辺りは編集序文で語られているので以下略。
 それが噂やあやふやな情報でなく、他ならぬ監修者自身の口(ツィートだけど)から明確に"復活"が宣言されたのだから、嬉しいやら期待が否応なしに膨らむやら。

 復刊第1弾(通巻で第49巻)のテーマは『ダーク・ロマンス』。23年前の創刊第1巻のテーマが『ラヴ・フリーク(異形の恋愛)』を思い出し、それとの関連を思い浮かべてしまったのだが、編集序文によると「モードの世界におけるトレンドの《ダーク・ロマンス》」がモチーフであり、かつロマンスという語句自体、元来は中世に"ロマンス語"で書かれた「空想・冒険・伝奇的物語」であったらしい。そういったことを含め、もっと広義の―まさしく「異形コレクション」そのものと言えるようなテーマ、なのだとか。
 参加作家もシリーズ草創期からの常連陣から、休刊中にデビューを飾った若手まで幅広い。「《異形》を読んで育った」というような若い作家が参加しているというのも、シリーズ自体が長命であること、そして眠りの期間が短くも長かったことを示しているのだろう。

 本を開く。まず伯爵―井上氏の前口上が何とも懐かしく、そして嬉しい。
 本編は15篇収録。以下各作品について手短に。

・夕鶴の郷(櫛木理宇)
 深夜バイクで事故に遭った男が目覚めたのは、病院のベッドではなく山村の古びた民家、側にいたのは見知らぬ老爺だった。かいがいしく世話を焼く、老爺の孫と名乗る娘は、男が捨てた恋人に似通っていた。
―タイトルからもわかるように戯曲『夕鶴』をモチーフにしているが、終盤で繰り広げられる地獄図絵はかくも悍ましい。小松左京「保護鳥」や篠田節子「神鳥-イビス-」を思い出した。
・ルボワットの匣(黒木あるじ)
 バーで横の席に現れた老齢の男は、「私」が自死を選ぶか、若しくは人を殺めるか迷っていることを看破する。彼は人殺しの告白を聞いて欲しい、と語り出す。
―男が取り出した箱の呪い……その正体に中盤までに勘付く読者も少なからずいるかもしれない。ラストまで読むと、老人の最初の台詞が既にヒントになっていたことに気付く。
・黒い面紗(ヴェール)の(篠田真由美)
 芸術家の卵として仲間たちと、"巣"と呼ぶロンドン郊外の邸宅に寄宿していた「私」は、母親の容態が悪いと聞かされ、急遽実家へ連れ戻される。一週間後"巣"に戻ると、そこは異様な静けさに包まれていた。
―面紗(ヴェール)の下にあった女の顔は一体何だったのか。ラスト後に起こった(と思しき)惨事を考えるに……。
・禍 または2010年代の恐怖映画(澤村伊智)
 関係者の身や撮影現場で次々と起こるトラブルのため、ホラー映画『禍』の撮影は遅れに遅れていた。「―この映画は呪われている」そんな噂が以前から絶えない、そんな映画だったが―。
―ある種の粘度と質量を持ったような禍々しさが行間からじくじくと滲み出てくるような感覚は、この作家の真骨頂だと思う。
・馬鹿な奴から死んでいく(牧野 修)
 魔術医の「俺」は街中で傷ついた少女を助けたが、少女は悪名高い魔女の所有物だった。少女を返すことを拒んだまではよかった、が。
―牧野修って以前はこんな感じじゃなかったよなと思いつつも、魔術医と子犬のコンビは読んでいて楽しい。世界があんなんなっちゃ続篇は期待できなさそうだが。
・兇帝戦始(伴名 練)
 敵対する氏族に追われていた族長の息子の窮地を救ったのは、彼の氏族に身を寄せていたゲンギケイだった。海の向こうの異国から流れて来たという美しいその男は、時に不思議な力を揮う、謎の多い男だった。
―日本史上でも特に有名なあの伝説を下敷きに……と見せかけて、こっちを持って来たか!という仕掛けに思わず、にやり。この辺りから若手……《異形》休刊中に登場した作家の作品が再び続く。
・ぼくの大事な黒いねこ(図子 慧)
 チェコの医大生である僕はとある財団の駐在員でもあった。上司である姉から急遽ドイツへ赴くよう命じられた僕は、ドライバー兼通訳の無愛想なドイツ人と"ぬこ"のムッシュを伴なってドイツへ向かうが。
―人為的に作られた猫(ぬこ)の描写は愛らしく、猫好きにはたまらんのだろうが、終盤で見せる得体のしれない怪物(モンスター)としての顔で、この作品がSFホラーという事に気付く。
・ストライガ(坊木椎哉)
 二人の女性の独白から浮かび上がる、凄絶な純愛の顛末。
―正直に言って、BLとか百合はどうしても苦手というか(正確にはこの作品は百合じゃないんだろうが)生理的に受け付けない(あと、欠※フ※※というのもどうにも理解できない)……のではあるが、《ダーク・ロマンス》という語句のイメージに収録作品中最もハマっている一篇かもしれない、文字通り"異形の純愛"か。
・花のかんばせ(荒居 蘭)
 目覚めた男に語りかける声の主は、彼と同じく、髑髏の花になったある男のものだった。
―鈴蘭怖い。いや怖いのは実にも不可解な男と女か(なんつって)。
・愛にまつわる三つの掌篇(真藤順丈)
 母親譲りの放浪……何処かに定住することの出来ぬ血を意識する娘(『ⅰ.血の潮』)、幼いころから信じ続けたサンタクロースの姿を極地に求めた学者(『ⅱ.サンタクロース・イズ・リアル』)、大道芸人と炭団売りの娘の別離と意外な再会(『ⅲ.恋する影法師』)、3話のオムニバス。
―雰囲気の全く異なる3話。ⅱがユーモアに溢れている分大震災を絡めたⅰ、原爆を絡めたⅲの何とも重い読後感がより残る。
・いつか聴こえなくなる唄(平山夢明)
 ある惑星。人間は家畜としてある生物ノックスを使役していた。農場で多くのノックスを管理する父親を持つ少年はある日、ノックスの雌の子供を偶然助けるが。
―このモチーフは監修者の解説にもある通り、多分に現代もなお人類に巣食う宿痾なんだろう。後半の畳み掛ける展開に筆者らしくない違和感を覚えて(以下略
・化石屋少女と夜の影(上田早夕里)
 異形の博物学や化石が教養として根付いた世界。海辺の町で化石屋を営む少女紗奈は、浜辺で梨々子と名乗る見慣れぬ中年女性から声をかけられる。
―ふと、今年のノーベル化学賞を受賞した二人の女性科学者が思い浮かんだ。二人の女性ということ以外全く関連はないのだけれども。時を超える友情か歴史を捻じ曲げる我儘か。
・無名指の名前(加門七海)
 少女はメモに書かれた『製作所』を探す。双子の妹の≪指≫に合うドレスを仕立てるために。
―双子の少女達の罪と罰、なのか。
・魅惑の民(菊地秀行)
 地下室で繰り広げられる異様な見世物。観衆の中にFと呼ばれる男がいた。
―史上に悪名高いあの帝国を模した(人名も全てイニシャル)一篇に思えるが、その本質は……史実に於いて約80年前に犯された悍ましく愚かな凶行が、この現代でもまた繰り返され兼ねないことに対しての、著者の危機感の表れなのか。
・再会(井上雅彦)
 ハロウィーンの夜、車のハンドルを握る男。約束を果たすために。
―モード言語としての『ダーク・ロマンス』からインスパイアされたという、監修者の作品が掉尾を飾る。煌びやかなイメージとガジェットの羅列は正直なところ上滑りしている感も失礼ながら無きにしも非ず、だが《異形コレクション》三度目の復活を祝うイルミネーションと考えるなら、これほど相応しい一篇もないかもしれない。


 Twitterで「9年の飢えを充たすべくゆっくり堪能したい」なんて呟いてしまったが、期待値を数倍超えるような満足感だった。特に冒頭からの5、6篇はこういうのが読みたかった!と自分のツボにびしりとハマってくれるような作品ばかりで、読者以上に執筆された作家さんの方々が今回の復活を喜び、筆を揮ったんではなかろうか、なんてことも思えて来る。

 空白の9年の飢えは充たされた。しかし困ったことがある。
 続刊が早く読みたいという、新たで懐かしい飢餓感を覚えてしまったこと。

 幸いなことに来月に復刊第2巻(書物がテーマとか)が早くも予告されている。
 復活の宴はまだ続くのだ。

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