SSブログ

「恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 来年(2023年)に創刊30周年を迎える角川ホラー文庫。
 その全作品から選定された「角川ホラー文庫ベストセレクション」の第二弾。

『恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション』編)朝宮運河(角川ホラー文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』に続く、ベスト・オブ・角川ホラー文庫。ショッキングな幕切れで知られる竹本健治の「恐怖」、ノスタルジックな毒を味わえる宇佐美まことの「夏休みのケイカク」、現代人の罪と罰を描いた恒川光太郎の沖縄ホラー「ニョラ穴」、アイデンティティの不確かさを問い続けた小林泰三の代表作「人獣細工」など、SFや犯罪小説、ダークファンタジーテイストも網羅した"日本のホラー小説の神髄"。解説・朝宮運河

 自主的にやっている"国内ホラー・アンソロジー(傑作選)読み込み強化月間"の3冊目。
 第一弾『再生』は読了したものの記事にまだUpしていないのだが、既読作品もあるとはいえなかなか愉しめた。その好評を受けてか昨秋に出たのが第二弾の本書。『再生』が心霊系、怪談寄りの作品が中心だったのに対し、こちらはSFやノワール、ダークファンタジー的なラインナップだという。確かに逸品揃いで、個人的には第一弾よりもさらに愉しめた。収録8編の内3編が女性作家の作品であり、そのどれも憎悪や執着や妄執など「過去に囚われる」女性に纏わる怪異や恐怖が描かれているのが興味深く、そしてどれも怖い。
 全8編。以下簡素なあらすじと感想など。

恐怖(竹本健治)
 恐怖という感情が欠落した男と彼に強い関心を覚えた友人。十年を経て再会した時、かつての"実験"の続きが始まる
―主人公が恐怖を感じない理由は結末で判明するが、それを知ってなお"恐怖感"を覚えない男の姿が、怖い。
(小松左京)
 井戸掘りを始めた自宅の庭から際限なく出て来る骨、骨、骨……
―自分たちのいる場所、そして歴史が夥しい数の骨……死の上に成り立っていると気付かされると、何やら背筋に冷たいものが。
夏休みのケイカク(宇佐美まこと)
 中年の図書館職員と、離婚した母親と暮らす少女。それぞれの孤独を抱えた二人の女性が「本への落書き」を介して交流する……と思いきや。
正月女(坂東眞砂子)
 一時退院により年末年始を自宅で迎えることとなった女性。年越し直前に発作を起こした彼女に対し姑は信じ難い行動に出る。翌朝、姑は素知らぬ顔で彼女に"正月女"の話をし…
―己の病状が悲観的なことも加わり、義実家や周囲の人々に対する疎外感、夫への疑念と執着が、絶望となって主人公を蝕んでいく。
ニョラ穴(恒川光太郎)
 ある若者が遺したと思しき手記。その無人島の奥にある洞窟には近付くなと警告する。手記には男が島に来た経緯と、島の洞窟に住む怪物について記されていた
―怪物は無論異様で恐ろしいのだけれど、登場人物も皆倫理観の何かが一様に欠けているようで、そこがユーモラスでもあり薄気味悪くもある。
或るはぐれ者の死(平山夢明)
 JJと名乗るホームレスの男は、ある日車が行き交う道路の中央に潰れてへばりついた塊から目が離せなくなる。その塊の正体に気付いた男は……
―あまりに残酷な一編。恐ろしいのはJJの行動や彼の行動の末路よりもJJ以外の登場するすべての人間たちであり、それはある部分で読者の姿でもあるということ、か。一般的なホラーの怖さとは異質の何かで心を抉られる感じ。
(服部まゆみ)
 2月の寒いある日、画商の店を訪れた老婆が買取を希望したのは見事な立ち姿の日本人形。商材とは異なるものの人形を気に入った画商は言い値の5万円で買い取る。その後、人形はさる伝説的な人形師の手によるものであることが判明するが……
―天才人形師の手がけた雛人形をめぐるある姉妹の長年月にわたる相克、嫉妬、妄執。日本人形ってやはり、何故か怖い。
人獣細工(小林泰三)
 私は医師だった父によって体中の臓器を移植されていた。それも人のものでなく、遺伝子操作された彘(ぶた)の臓器を。父の死後、私は自分が人間であると確信できる証拠を見つける為、父親が遺した研究資料の整理を始める。
―著者初期の代表作といわれるこの一編、実は未読だった。自らのアイデンティティの危うさというモチーフは他作品でもよく扱われているが、このラストの残酷さは予想がつくものではあってもショッキング。



 序盤の2編(「恐怖」/「」)を除けば全て平成以降の作品で、今月読了のアンソロジー2冊で感じた「濃厚な昭和の空気」は当然感じず、親近感、言い換えるならリアリティを持つ懐かしさを覚えるのはかえってこちらの作品かもしれない。
 巻末の編者の言葉では第3弾以降も期待できそうな気配。

banner_03.gifにほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ ブログランキングに参加しています。
   ↑よろしければ ↑1クリック お願いいたします。

nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

「恐怖推理小説集」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 ミステリ作家、鮎川哲也編纂による"恐怖小説"のアンソロジー。

「恐怖推理小説集」編)鮎川哲也(双葉社文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
恐怖小説には冒頭の一行から最終行に到るまで恐怖の連続というものもあれば、さり気なく恐怖を描いて、数日後にふと思い出したとき思わずゾーッとなるものもある。音楽でいうクレッシェンドのように徐々に恐怖感を盛り上げておいて、クライマックスでブツンと切れるものもある。そこでバラエティーに富む作品を集めることに意を用いた(編者)


"(恐怖)推理小説集"とのタイトルだが、厳密なミステリやサスペンス―合理的な展開と真相が用意されているものだけでなく、幻想系小説や怪談じみたものも含まれる。星新一や半村良の作品は、この前に読了した『ホラーSF傑作選』に収録された方がむしろ据わりがいいかもしれない。主にミステリ系作品を主に手掛けていた作家による"恐怖小説"を集めた―というところだろうか。

 全13編。以下各編のさわりと簡素な感想。

蛇恋(三橋一夫)
 新婚の妻殺害の嫌疑をかけられた夫。しかし肝心の妻の遺体は見つかっておらず、夫は不可解な証言を繰り返している。その夫妻をよく知る人物が記した記録から浮かび上がる真相とは
―夫婦の行き違いによる誤解が悲劇に繋がるというよくあるパターンだが、提示される結末は一気に幻想的なものに。しかしなぜそのような姿に?という謎は放置。
東天紅(日影丈吉)
 駅の待合室で聞こえて来た殺人事件の話。その後目的地へ向かう途中、筵を積んだリヤカーを引く女と成り行きで同道することになるが、女の話に次第に疑念が募って行く
―序盤に陰惨な殺人事件が提示され、そして犯人と思しき人物が登場、その行動も疑念を裏付けるようなもの。真相を突き止めようとする展開に恐怖感が盛り上がって行く。大晦日から新年の朝という時間設定だけに、幕切れの情景が鮮烈。
不死鳥(山田風太郎)
 ある老教授の死にまつわる、隣家に住む少年と教授宅の住み込みの若い女中の告白、そして教授自身の遺書から浮かび上がる異様な真相
―山田風太郎の作品はほとんど読んだことがないが、こういう雰囲気のものが多かったのかなと勝手な感想。当時なら「異常性愛」ものという扱いだったんだろうが、今ならNTRもので括られるんだろうか。
もう一度どうぞ(戸川昌子)
 かつて心中事件を起こし、生き残った"わたし"。海外へ渡って整形手術をして名前も変え、ほとぼりが冷めたと思っていたが、偶然にも当時の事件に疑いを持つ男と知り合ってしまった
―芸能畑にも身を置いていた著者だけに、芸能界に片脚を突っ込んだ―しかも世間知らずでやや身勝手な若い女性という主人公像にはどこかリアリティがある。二匹目のドジョウを狙おうとして訪れる結末は……これは因果応報とも言えるが、恐ろしい。
人形(星新一)
 強盗事件を犯して逃亡する男。その隠れ家を訪れたのは物売りの老婆で、売り物は1体のわら人形だった
―「ノックの音がした。」の一文で始まる連作SS集『ノックの音が』収録の一編。呪いのわら人形を利用して苦境を脱しようとする男のアイデアは……ブラックな皮肉が利いていていかにも星SSの味わいだけれど"推理小説"ではないわなあ。
爪の音(おかだえみこ)
 銀座の美術商のショーウィンドに飾られた、紳士の身体にモグラの顔がついた風変わりな大理石像。それを見た翌日から私の身辺で奇妙なことが続発する
―この話は著者の実体験に基づくものだという。しかも最初はある有名人の作品として(要はゴーストライターとして)発表されたというのも面白い。怪談よりの奇譚ってところか
禁じられた墓標(森村誠一)
 綿密な計画の末、猫を偏愛する高利貸の老婆を殺害して大金を奪った男。それを元手に事業を成功させ若い妻も迎えたが、なぜか子供には恵まれなかった。ある日妻が飼いたいと連れて来た子猫を見て戦慄する
―いうなれば「猫による復讐」なのだが、怪奇譚のような雰囲気でありながら合理的解釈の余地も用意されているのは手練れの著者ならでは。文庫の表紙イラストは本作のイメージと思しいが、"恐怖推理小説"というタイトルに最もしっくり来るのもこの作品ではないかと。
夢中犯(半村良)
 タバコの火を借りに話しかけて来た老人が語るのは、最後に見た夢だという「殺人を犯した」夢の話
―のどかな雰囲気の中での他愛もない夢についての会話が、次第に悪夢に迷い込んでいくような展開。読み終えてページから顔を上げた時、今が現実か夢の中なのか一瞬本気で不安になった。
剃刀(野呂邦暢)
 寂れた町を商用で訪れ、バスを待つ合間に理容店を訪れた男。店員らしい女との会話の中で前年に隣町であった殺人事件のことを尋ねるが
―この9㌻足らずの掌編の中で何か事件が起こるわけではなく、女の正体が何なのかもわからない(その辺含め舞台は幻想系作品寄り)。だからこその静謐な怖さ。
わたし食べる人(阿刀田高)
 食道楽が昂じて30代にも関わらず恰幅が良過ぎるタナカ氏。あるレストランで話しかけてきたのは精神科医。彼の考案した治療法によれば、食欲を我慢することなく無理なく痩せられるのだという……
―夢の中で食欲を満たすという方法はまさに"夢"のようだが、想像力がカギというのがそのキモになっている。しかしこれだけ酸鼻極まる描写なのになぜか美味しそうなのは、あくまでブラックユーモア作品として書かれているからか。
影の殺意(藤村正太)
 突然失踪した兄の行方を独力で追っていた主人公。何かを知っていると疑わしい女性の家にも仕事上での関わりを持つことで入り込むことに成功したが……
―読者の予想を裏切る真相(ただし合理的)ってことでは収録作中最も無理のない作品か。舞台は自宅からそう遠くない場所だが、40数年前はそのような雰囲気だったのかと興味深くも読めた。
死霊の家(草野唯雄)
 性的に抑圧される生活を強いられている"私"は、ある日から何度か鮮明で濃密な艶夢を見るが、最後の夢で酸鼻極まりない場面を目の当たりにする。その後偶然訪れた地で、夢の中と瓜二つの蔦に覆われた洋館を発見するが
―昨年、著者の短編集『甦った脳髄』でこの作品は既読。主人公の強い性的欲求不満が死者の怨念と結び付くという、荒唐無稽な70年代エログロ・ホラー。
(樹下太郎)
「雨の日に散歩に出ればいいことがある」と告げる奇妙な電話。疑いつつもそれに従うと確かに幸運を手にした。しかし雨は彼の人生に影を落としており、しかもその理由は不明なままだった
―彼の人生に雨が影を落とし続けて来た理由は提示されたようで、真相も、電話の相手の真意も朧気なまま。読後も何やら小雨に煙って見通せない情景のようで、何とも言えぬ―それでいて悪くはない読後感。



  ハードカバー版での初版は昭和52(1977)年(文庫版の初版は昭和60(1985)年)。収録作は古いもので昭25(蛇恋/三橋一夫)、最も新しいものは初版時では最近作になる52年(雨/樹下太郎)と、それなりに幅は広いが、主に昭和40年代の作品が多く、やや昔の昭和を感じさせる雰囲気が全般に漂う。

banner_03.gifにほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ ブログランキングに参加しています。
   ↑よろしければ ↑1クリック お願いいたします。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

「ホラーSF傑作選」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 3が日も終わろうとしていますが、明けましておめでとうございます。
 今年はもう少し更新したいと思っております。例によって大半はTwitterですが。

 ってことで今年最初の読了本。
 1970年代末に刊行された怪奇幻想系SFのアンソロジー。

「ホラーSF傑作選」編)豊田有恒(集英社文庫コバルトシリーズ刊)

◆内容紹介(巻末解説より)
ホラー(Horror)とは、恐怖という意味です。ただ恐ろしいだけでなく、謎めいた恐ろしさということです。SFの恐さは、ある場合には、本来のホラーとは違うかもしれません。読み終わってから、ぞっとするということもあります。あるいは、そのイマジネーションや、シチュエーションそのものが、恐いということもあります。この短編集は、単なるホラーでない凝ったものばかりです。


 今月は国内作家の怪奇幻想系、あるいはホラー、恐怖譚の傑作選アンソロジーをまとめ読みしてみようと思い立ち、まずはこの1冊。
 初版が昭和53(1978)年と44年前のもの。執筆陣に目をやると小松左京、眉村卓、筒井康隆、半村良、星新一らに福島正実まで、日本SF草創期のオールスター、あるいは昭和SF作家アベンジャーズとでも言うべき顔ぶれ(それだけに編纂者の豊田有恒氏の作品が収録されていないのはちょっと意外というか)

 作品自体はタイトルで“ホラーSF”と銘打ったほどホラー色は濃くはなく、むしろ当時のSF作家が書いた怪奇色のある幻想譚といった雰囲気。昭和30~40年代の社会風俗の雰囲気が伺えるものが多く、“隠れ里”を舞台にした作品、さらに「個人の怒りや怨み、執念や絶望が実体化して実の世界や他人へ影響をもたらす」モチーフを用いた作品が複数あるのを見ると、この当時はこういったモチーフが流行りだったのかとも考える(今回は名作「くだんのはは」が収録された小松左京も、このモチーフで「召集令状」という怖い話を書いている)。

 全11編。以下各編のさわりと簡単な感想。

くだんのはは(小松左京)
―言わずと知れた日本ホラー短編のマスターピース。丑年が明けた直後に読むというのもアレだが、カタストロフを匂わせるラストからして新年一発目に読むのはちと縁起が悪いか?……なーんてことは今さら気にしないけども。
斬る(かんべむさし)
 顧客や上司、工場との板挟みで鬱屈した日々を送る営業マンの哲男。ある日彼はモデルガンショップの店頭に飾られた軍刀に心を奪われる。軍刀をようやく手にした哲男は夜は自室で軍刀を振り、日中は「斬る」という言葉を呪文として鬱積した思いと対峙していくが……
―この著者の作品というとユーモアやコメディ色の強いSFといった印象が強いが、本編はやや陰鬱なトーンが続き最後に爆発するといった点でやや意外にも感じる。
くおんしゅの踊り(矢野徹)
 とある山村では祭りの踊りの最中、何年かに一度霧の奥に昔の村が現われ、そこで暮らす死者と会うため手紙を書いて墓地で燃やすのだという。主人公は戦時中に南方で命を救ってくれた人物に手紙を書く。
―タイムトラベル+復活(転生?)のファンタジー。というよりオッサンの理想というか妄想と思えなくもない(言い過ぎ)。
おお、マイホーム(眉村卓)
 若夫婦がようやく手にしたマイホームは最寄りの駅からも遠い新築マンションの11階だった。しかも人気薄のため同じフロアには彼らしか入居していなかったが、夫婦にとっては念願のマイホームだった。しかしある日、ある部屋のドアから目つきの悪い若者が出て来てこちらを窺っていることに気付く。
―マンションの不穏な隣人というモチーフはそれこそ、現在の実話怪談や恐怖譚的なものとなりそうだが、予想に反して話は意外な方向へ。スラップスティックなクライマックスの展開は面白おかしくも、マイホームへの切実な思いも込められ悲哀も感じさせる。
メトセラの谷間(田中光二)
 山間での渓流釣りの最中、深い谷にかかる地図にない橋を見つけた主人公。温泉宿の主人は当初は否定するが、やがて「それは幻の谷で何年かに一度現れるが、それを見た者には不幸が訪れるし、そのまま帰らぬ者も少なくない」と語る。
―これも隠れ里モチーフ。真相が明かされて「あ、これSFだった」と思い出す。しかしこの手の隠れ里に迷い込んだ男ってどーして若い娘と懇ろになる展開がお約束なんだw
佇むひと(筒井康隆)
 こちらもこういった国産ホラー傑作選では頻出のマスターピース。ホラーであると同時にディストピア小説の秀逸な一編とも言えるか。
 それはさておき、ツツイ短編でホラーの傑作選に選ばれるのはこれか「母子像」がほとんどで、確かに両作品とも非常に怖いのだが、これらのような怖さに同時にリリカルな静謐さを持った作品の方が高評価なんだろうか。個人的にはひたすら不条理さ全開の「乗越駅の刑罰」「走る取的」「熊の木本線」みたいなのも相当怖いとは思うのだが。
背後の虎(平井和正)
 三度目の流産によって今後の出産が不可能となった女性。悲嘆の余り廃人のようになった妻を案じつつも出張のため家を出た夫は、出がけに獣の息遣いと唸り声を耳にする
―こちらも「絶望や怨みが実体化する」モチーフの一。流産、さらに子供を産むことが絶望的になるということは女性にとって筆舌に尽し難い苦しみであるのだろうけど、これを読む限りでは少々逆恨みな気がしなくもない……。ま、寅年ってことで。
緑の時代(河野典生)
 夜明け前の新宿。スナックを出た“僕ら”は、開店前の銀行の入口に緑色の苔が絨毯のように広がっているのに気付いた。
―恥ずかしながら河野典生という作家を初めて知ったのだが、ハードボイルド系作家であると同時に「自然と文明が溶けあう」作風の幻想系SFの書き手でもあったとのこと。なるほど本編もそのイメージのままで、ラストは絶望的ながらも美しい。
過去への電話(福島正実)
 雑誌の企画で「過去への電話」を思い立ち、文芸評論家として一時は華やかな活躍をした人物へ酒場から電話をかけた編集者。すぐに自宅を訪ねることとなりタクシーに飛び乗った彼だったが……
―「あの人はいま」な人物に過去と現在を語らせる、少々意地悪な企画の取材のはずが、いつしか自身も過去の世界へ囚われて行く……考えようによっては本書中最も“ホラーSF”な趣の一編。編集者、翻訳者として日本SF草創期の中心人物の一人だった福島正実の作品だが、児童書で福島作品を読んだのみの自分は「福島正実ってこういうクセのある文章を書くのか」と新鮮な感覚も。
自恋魔(半村良)
 小さなデザイン事務所を営む柿田は義叔父が経営する芸能プロダクションに移籍した男性アイドル歌手、高沢啓一のポスター撮影を担当する。完成後高沢本人から使用した写真について泣きながらのクレームが入るが、その数日後高沢は事故で意識不明となる。異変はそこから始まった。
―自分の美貌に絶対の自信を持つ男性歌手。過度のナルシズムが異変を引き起こす……これも「強烈な思念が現実社会に影響する」作品。ラストは馬鹿馬鹿しいようでその実、かなり怖い。
背中のやつ(星新一)
 久方ぶりに会った幼馴染は一歳児ほどの大きさの、しかし皺くちゃの老人の顔を持つ人間を背負っていた。幼馴染の話ではそれを背負っていると決して道に迷わないのだという。
―その老人の顔を持つ赤子は一体何者なのか。何とも不可思議だが軽妙な一編で、後味が悪くないのも星SSとしてはやや珍しいか。


 普段からホラーや怪奇幻想系の話ばかり読んで感性がねじけていると、ついつい悲劇や惨劇、破綻を迎えるラストを想像してしまうのだが、そこまで「うわ酷い」という話はないようで。時代ということもあれば、集英社文庫コバルトシリーズという10代後半~20代前半の読者向けのレーベルで刊行されたということもあるのだろう。

banner_03.gifにほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ ブログランキングに参加しています。
   ↑よろしければ ↑1クリック お願いいたします。

nice!(4)  コメント(1) 
共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。