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「ホラーSF傑作選」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 3が日も終わろうとしていますが、明けましておめでとうございます。
 今年はもう少し更新したいと思っております。例によって大半はTwitterですが。

 ってことで今年最初の読了本。
 1970年代末に刊行された怪奇幻想系SFのアンソロジー。

「ホラーSF傑作選」編)豊田有恒(集英社文庫コバルトシリーズ刊)

◆内容紹介(巻末解説より)
ホラー(Horror)とは、恐怖という意味です。ただ恐ろしいだけでなく、謎めいた恐ろしさということです。SFの恐さは、ある場合には、本来のホラーとは違うかもしれません。読み終わってから、ぞっとするということもあります。あるいは、そのイマジネーションや、シチュエーションそのものが、恐いということもあります。この短編集は、単なるホラーでない凝ったものばかりです。


 今月は国内作家の怪奇幻想系、あるいはホラー、恐怖譚の傑作選アンソロジーをまとめ読みしてみようと思い立ち、まずはこの1冊。
 初版が昭和53(1978)年と44年前のもの。執筆陣に目をやると小松左京、眉村卓、筒井康隆、半村良、星新一らに福島正実まで、日本SF草創期のオールスター、あるいは昭和SF作家アベンジャーズとでも言うべき顔ぶれ(それだけに編纂者の豊田有恒氏の作品が収録されていないのはちょっと意外というか)

 作品自体はタイトルで“ホラーSF”と銘打ったほどホラー色は濃くはなく、むしろ当時のSF作家が書いた怪奇色のある幻想譚といった雰囲気。昭和30~40年代の社会風俗の雰囲気が伺えるものが多く、“隠れ里”を舞台にした作品、さらに「個人の怒りや怨み、執念や絶望が実体化して実の世界や他人へ影響をもたらす」モチーフを用いた作品が複数あるのを見ると、この当時はこういったモチーフが流行りだったのかとも考える(今回は名作「くだんのはは」が収録された小松左京も、このモチーフで「召集令状」という怖い話を書いている)。

 全11編。以下各編のさわりと簡単な感想。

くだんのはは(小松左京)
―言わずと知れた日本ホラー短編のマスターピース。丑年が明けた直後に読むというのもアレだが、カタストロフを匂わせるラストからして新年一発目に読むのはちと縁起が悪いか?……なーんてことは今さら気にしないけども。
斬る(かんべむさし)
 顧客や上司、工場との板挟みで鬱屈した日々を送る営業マンの哲男。ある日彼はモデルガンショップの店頭に飾られた軍刀に心を奪われる。軍刀をようやく手にした哲男は夜は自室で軍刀を振り、日中は「斬る」という言葉を呪文として鬱積した思いと対峙していくが……
―この著者の作品というとユーモアやコメディ色の強いSFといった印象が強いが、本編はやや陰鬱なトーンが続き最後に爆発するといった点でやや意外にも感じる。
くおんしゅの踊り(矢野徹)
 とある山村では祭りの踊りの最中、何年かに一度霧の奥に昔の村が現われ、そこで暮らす死者と会うため手紙を書いて墓地で燃やすのだという。主人公は戦時中に南方で命を救ってくれた人物に手紙を書く。
―タイムトラベル+復活(転生?)のファンタジー。というよりオッサンの理想というか妄想と思えなくもない(言い過ぎ)。
おお、マイホーム(眉村卓)
 若夫婦がようやく手にしたマイホームは最寄りの駅からも遠い新築マンションの11階だった。しかも人気薄のため同じフロアには彼らしか入居していなかったが、夫婦にとっては念願のマイホームだった。しかしある日、ある部屋のドアから目つきの悪い若者が出て来てこちらを窺っていることに気付く。
―マンションの不穏な隣人というモチーフはそれこそ、現在の実話怪談や恐怖譚的なものとなりそうだが、予想に反して話は意外な方向へ。スラップスティックなクライマックスの展開は面白おかしくも、マイホームへの切実な思いも込められ悲哀も感じさせる。
メトセラの谷間(田中光二)
 山間での渓流釣りの最中、深い谷にかかる地図にない橋を見つけた主人公。温泉宿の主人は当初は否定するが、やがて「それは幻の谷で何年かに一度現れるが、それを見た者には不幸が訪れるし、そのまま帰らぬ者も少なくない」と語る。
―これも隠れ里モチーフ。真相が明かされて「あ、これSFだった」と思い出す。しかしこの手の隠れ里に迷い込んだ男ってどーして若い娘と懇ろになる展開がお約束なんだw
佇むひと(筒井康隆)
 こちらもこういった国産ホラー傑作選では頻出のマスターピース。ホラーであると同時にディストピア小説の秀逸な一編とも言えるか。
 それはさておき、ツツイ短編でホラーの傑作選に選ばれるのはこれか「母子像」がほとんどで、確かに両作品とも非常に怖いのだが、これらのような怖さに同時にリリカルな静謐さを持った作品の方が高評価なんだろうか。個人的にはひたすら不条理さ全開の「乗越駅の刑罰」「走る取的」「熊の木本線」みたいなのも相当怖いとは思うのだが。
背後の虎(平井和正)
 三度目の流産によって今後の出産が不可能となった女性。悲嘆の余り廃人のようになった妻を案じつつも出張のため家を出た夫は、出がけに獣の息遣いと唸り声を耳にする
―こちらも「絶望や怨みが実体化する」モチーフの一。流産、さらに子供を産むことが絶望的になるということは女性にとって筆舌に尽し難い苦しみであるのだろうけど、これを読む限りでは少々逆恨みな気がしなくもない……。ま、寅年ってことで。
緑の時代(河野典生)
 夜明け前の新宿。スナックを出た“僕ら”は、開店前の銀行の入口に緑色の苔が絨毯のように広がっているのに気付いた。
―恥ずかしながら河野典生という作家を初めて知ったのだが、ハードボイルド系作家であると同時に「自然と文明が溶けあう」作風の幻想系SFの書き手でもあったとのこと。なるほど本編もそのイメージのままで、ラストは絶望的ながらも美しい。
過去への電話(福島正実)
 雑誌の企画で「過去への電話」を思い立ち、文芸評論家として一時は華やかな活躍をした人物へ酒場から電話をかけた編集者。すぐに自宅を訪ねることとなりタクシーに飛び乗った彼だったが……
―「あの人はいま」な人物に過去と現在を語らせる、少々意地悪な企画の取材のはずが、いつしか自身も過去の世界へ囚われて行く……考えようによっては本書中最も“ホラーSF”な趣の一編。編集者、翻訳者として日本SF草創期の中心人物の一人だった福島正実の作品だが、児童書で福島作品を読んだのみの自分は「福島正実ってこういうクセのある文章を書くのか」と新鮮な感覚も。
自恋魔(半村良)
 小さなデザイン事務所を営む柿田は義叔父が経営する芸能プロダクションに移籍した男性アイドル歌手、高沢啓一のポスター撮影を担当する。完成後高沢本人から使用した写真について泣きながらのクレームが入るが、その数日後高沢は事故で意識不明となる。異変はそこから始まった。
―自分の美貌に絶対の自信を持つ男性歌手。過度のナルシズムが異変を引き起こす……これも「強烈な思念が現実社会に影響する」作品。ラストは馬鹿馬鹿しいようでその実、かなり怖い。
背中のやつ(星新一)
 久方ぶりに会った幼馴染は一歳児ほどの大きさの、しかし皺くちゃの老人の顔を持つ人間を背負っていた。幼馴染の話ではそれを背負っていると決して道に迷わないのだという。
―その老人の顔を持つ赤子は一体何者なのか。何とも不可思議だが軽妙な一編で、後味が悪くないのも星SSとしてはやや珍しいか。


 普段からホラーや怪奇幻想系の話ばかり読んで感性がねじけていると、ついつい悲劇や惨劇、破綻を迎えるラストを想像してしまうのだが、そこまで「うわ酷い」という話はないようで。時代ということもあれば、集英社文庫コバルトシリーズという10代後半~20代前半の読者向けのレーベルで刊行されたということもあるのだろう。

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ミスター仙台

明けましておめでとう御座います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
by ミスター仙台 (2022-01-08 21:53) 

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