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「死刑執行人サンソン -国王ルイ十六世の首を刎ねた男」 [Book - Public]

 中世から近代への移行期の只中であった17世紀末のフランス。パリの死刑執行人(ムッシュ・ド・パリ)、サンソン家の四代目当主であるシャルル-アンリ・サンソンの姿を通じて描く、革命前後のフランスの側面史。

「死刑執行人サンソン -国王ルイ十六世の首を刎ねた男」 安達正勝著(集英社新書刊)

◆内容紹介(表紙見返しより)
 敬虔なカトリック教徒であり、国王を崇敬し、王妃を敬愛していたシャルル‐アンリ・サンソン。彼は、代々にわたってパリの死刑執行人を務めたサンソン家四代目の当主であった。そして、サンソンが歴史に名を残すことになったのは、他ならぬその国王と王妃を処刑したことによってだった。
 本書は、差別と闘いながらも、処刑において人道的配慮を心がけ、死刑の是非を自問しつつ、フランス革命という世界史的激動の時代を生きた男の数奇な生涯を描くものであり、当時の処刑の実際からギロチンの発明まで、驚くべきエピソードの連続は、まさにフランス革命の裏面史といえる。

 この新書、初版の刊行は’03年12月となので、ほぼ10年前に出たもの。自分が購入したのが今年6月の第八刷だから、新書としてはそれなりに数が出ているものなのかも。帯に描かれた人気漫画のキャラクターと、「このキャラのモデルが"サンソン"である」という漫画家自身のコメントも、この本の隠れた?人気に一役買ってはいるようだが。

 閑話休題。

 本書を手に取ったのは、週刊ヤングジャンプに連載中の「イノサン」をふと立ち読みしたことがきっかけ。

 コミックスもまだ1巻しか出てないので物語はまだ序盤のようだが、主人公"シャルル=アンリ・サンソン"がどういう人物なのか気になって調べてみたところ、このマンガの原案となっている本書の存在を知った、というところ。この人物の概要についてはこちら ↓ を参照されたし。

「罪人の処刑」という、国から課せられた最も重く厳しい役目を担いながら、社会からは蔑まれ不当な扱い(住居、結婚、教育、職業選択等々)を受け、しかしその一方で経済的には当時の貴族レベル―という死刑執行人の家系、サンソン家。
 サンソン家がなぜ死刑執行人という"呪われた家系"となるに至ったのか、まずは初代サンソン(シャルル-アンリの3代前)が処刑人となるに至ったエピソードから、本書は幕を開ける。

 シャルル-アンリもまた父親の後を継いでムッシュ・ド・パリとなる。本来、死刑執行人はAnonyousであるように、彼もまた無名の人間として歴史の中に埋もれるはずだったが、フランス、否欧州や北米までも駆け抜けた革命の嵐と、一つの機械が彼を歴史の表舞台に引っ張り出したのだった。
 それがフランス革命と国王ルイ16世、王妃マリー・アントワネットの処刑と、それに用いられた断頭台「ギロチン」である。
 

 ギロチン登場以前のフランスでの処刑方法は、(凶悪犯に対する残虐刑は別として)貴族は(刀による)斬首、一般市民は絞首刑が標準的なものだった。1789年8月に採択された人権宣言にある≪法の下の平等≫に基づき、「同一の犯罪においては身分の如何に問わず同一の処刑方法であるべき」という議論が起こり、それがギロチン登場へとつながっていく。そのあたりを、本文では論理の筋道を簡略した形で

刑罰は平等でなければならない
→野蛮で暗黒な時代とは違って、人権が重んじられるこれからの新しい時代には、処刑方法は人道的なものでなければならない
→首を切断するのが、もっとも苦痛少なくして迅速に死に至らしめる人道的な処刑方法である
→しかし剣による斬首に失敗はつきもので、一太刀で首を刎ねないと死刑囚はもがき苦しむことになる
→ゆえに、機械で確実に首を切断せねばならない
→ギロチンが考案される

と示している。

 実際のところ、ギロチンの名の元となった医師ジョゼフ・ギヨタンは議会で「人道的な処刑方法の導入」を主張し、当時既にイギリスやドイツ等で使われていた断頭台の導入を提唱したまでであり、後にギロチン(Guillotine―ギヨタンの子の意)と呼ばれるフランス式の断頭台の開発には関わっていない。開発にはシャルル-アンリと、ルイ16世の侍医で科学者でもあったアントワーヌ・ルイ博士が携わっている。また、宮殿で内輪で行われた処刑機械の検討会にルイ16世がお忍びで出席し、刃の形状について的を射た意見を述べたという件が登場する(これは説話であり史実でないという意見もある)

 筆者の口ぶりはルイ16世にやや肩入れ気味というか、「趣味にうつつを抜かし、浪費家の王妃を野放しにし、革命に適応できずむざむざ首を落とされた暗君」という従来のイメージを覆したいようで、ギロチンの刃の角度について指摘した件を始めとした聡明な点、王妃一人を愛した愛妻家の顔などを描き出す(実際、彼は国民のよき理解者であろうとした啓蒙専制君主、ルイ14、15世の放漫経営が招いた財政難を建て直そうとする政策に積極的であった模様)。それ故、国王を崇敬していたサンソンの個人的感情と相まって、平穏な時代ならそれなりによき君主として人生を全うできたであろうルイ16世の悲劇性、その首を刎ねねばならぬサンソン……運命の皮肉というものを感じてしまう。

 そう、本書はフランス革命という激流に翻弄された人々の"運命の皮肉"というものが、裏テーマになっているのではないかと思えてくる。
「苦痛の少ない人道的な処刑方法」として開発されたギロチンが、その容易さ故に―特に革命後半―膨大な数の人間の首を落としたこと(シャルル-アンリ自身、恐怖政治の約1年半の間に二七百数十名の処刑を行っていた)、ルイ16世の例をはじめ、自身の名が処刑機械に付けられたことで改名せざるを得なかったギヨタン医師(彼がギロチンで処刑されたというのは都市伝説で、彼自身は病死)、さらには革命後半に恐怖政治を司り、多くの人をギロチン送りにしたロベスピエールとマラーが、革命初期に死刑廃止を訴えていたこと(その法案は否決された)等々……。

 それ故に、過酷な宿命を受け入れつつも常に"人間として"誠実であろうとし、自らの死を覚悟の上で亡き国王を弔うミサに参列し、死刑制度の廃止そのものを願ったシャルル-アンリ・サンソンの姿は―描写がやや情緒的に流れがちではあるものの―胸を衝くものがある。 
 現代日本における死刑制度については「存続すべき」という立場の自分だが、法の審判の下に刑が執行されるとはいえ、その最後のボタンを押すのも同じ人であるということを考えると、重い現実なのだと改めて思う。

 

 ちなみに、現在ヤングジャンプ誌連載中の「イノサン」では、フランス刑罰史上最後の八つ裂き刑が執行されるエピソードが描かれている。

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そして僕は途方に暮れる [Book - Public]

 大掃除がてら、本棚も整理して入れ替えてみるか……なんて思いつきでやり始め、

これだけよく読んだよなぁとも思う

 

 

 

 

 蔵書の2/3ほどを引っ張り出したところで我に返る。

 何やってんだ、自分。
 全部やろうとしたらいつ終わるかわかりゃあしない。

 ……今さらながら本が多過ぎ[たらーっ(汗)]
 既にオーバーフローを起こしている状況なのだから、断捨離よろしくある程度の冊数を古本屋に持っていくべきなのだろうが、その踏ん切りもつかず。

 とりあえず出版社別に本棚に押し込んで、今年の書架整理は終了。

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とある書店の店じまい [Book - Public]

 JR国分寺駅前の三成堂書店が今月いっぱいで閉店する。

閉店のお知らせ

32年間ということだから、1980年から営業していたということか。

初めて国分寺に引越してきたその日、まだ荷物も揃っておらず、ネット回線も開通していなかったので、とりあえず駅前に出て来て食事を済ませ、退屈しのぎに2,3冊文庫本を買っていったのがこの店だった。

最寄駅が国分寺でなくなったこの4年ほどは、正直足がやや遠のき気味になっていた。おなじみgo for it!さんのすぐ隣のビルにあるので、張替えや受取りに行ったついでに覗くことはあったけれども。 

 書店としてはいち早く?スタンプカードを導入したり(→こちらの記事)品揃えもそれなりで利用しやすかったんだが、雑誌はTポイントのつくから、とTUTAYAで専ら買うようになっていた。他の書籍にしても品揃えの面で、駅ビルに入っている紀伊国屋書店、あるいは新宿や吉祥寺の大型店に行ってしまうことが多くなっていた。客が利用できる検索端末の置いてある方が何かと探しやすいし……。

 手持ちのスタンプカードは空欄が残り3つ。
 1,500円以上買えばいっぱいになってちょうどキリもいい―と夕刻に足を運んでみたけれど、このところ目ぼしい本はあれこれ購入してしまったし、ならば買わずにいた翻訳もののハードカバーを……と思ったが、空白があちらこちらに見える書架に、お目当ての本はなく。結局何も買わずに店を出た。

 こういう時は何か見繕って買うべきだったんだろうか。
 明晩に時間があったら、もう一度店を訪ねてみようか思案中。

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「壊れかた指南」 [Book - Public]

 筒井康隆の最新オリジナル短編集の文庫版(単行本は'06年4月刊)。

「壊れかた指南」筒井康隆著(文春文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
タバコの煙で空中浮遊できるようになった男の悲劇。極端に口べたな編集者の驚くべき末路。無類の読書好きが集まって送る夢の生活。奇妙な味わいの短篇から、一瞬で終わるショートショート、とんでもない展開のスラップスティックまで。天才のあくなき実験精神とエンターテインメント精神が融合した全30篇。 解説・福田和也

 前半16篇はスラップスティック系あり、メタフィクション風な作者の愚痴交じりな作品あり。中盤のショートショート10篇を挟み、終盤4篇は淡々としたリリカルな、それでいて何処か奇妙で何かが起りそうで……な味わいの作品が並ぶ。帯には「最新オリジナル短編集」とあるが、既に他の短編集で収録されたものも含まれている模様(『出世の首』など)。

 総じてこれが近年の作風らしい(元よりツツイ御大、エログロやハチャメチャな結末は飽き飽きしているんだとか)のだが……前半の作品もドタバタが起りつつ、あるいは起きそうな雰囲気なのに、それが次第にあさっての方向へ向けて妙な展開を見せ、オチも付かずよくわからないまま終わってしまう。

『稲荷の紋三郎』のように「オチは書かないよ」と堂々開き直って投げ出してしまうのもそれはそれで面白いし、この作家だから許されてしまうのかもしれないが。終盤の『耽読者の家』にしろ『店じまい』にしろ、登場人物の情景と会話が淡々と綴られていくだけで、こちらはこれといった事件やドラマティックな展開が起こりそうで起きるわけでもない。解説によるとそれがなぜか怖いということなのだが、それも今一つ理解できない。
 掉尾を飾る『逃げ道』は、どうしようもなくほろ苦い余韻を残すが。

 初期ツツイ作品の猛毒に当てられ過ぎて未だに抜けてないからなんだろうか。
 実験作とはいうけども……ねぇ。

『鬼仏交替』は、かつてのハチャメチャな味わいがあった。またショートショート「土兎」は、旧作の掌編「池猫」を思い起こす(ってかほぼそのまんまって気も無きにしも非ずw)。

 ちなみに『壊れかた指南』という作品は収録されていない。

 ネット上の本書のレビューを読むと、収録作品全てが何らかの"壊れかた"の"指南"をしているという指摘が散見される。何を以て"壊れかた"なのか自分にはもう一つ具体的にイメージできないのだが―ただ、著者の旧作品に登場していた"壊れた"人々は当時の現実から相当に乖離していたように思うが、昨今のニュースを見聞きしていると、現実世界の人間がそちらにぐっと近付き、あるいはそれを凌駕しているように思えなくもない。

 もしかすると……。
 自分のような旧態依然のツツイ作品を好むような読者に対して、「そんなのはもう書く気はないよ」という著者のメッセージであり、そのための"壊れかた"指南なのかな……なんてふっと思ってしまったり。

 そんな大げさなもんじゃあないかw

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巨星がまた一つ、墜つ [Book - Public]

 全仏も終盤にかかっているけれど、今日はこちらに触れねばなるまい。

"SF界の叙情詩人"、作家のレイ・ブラッドベリ氏がこの世を去ったとのこと。
 享年91歳。

"SF界の叙情詩人"なる二つ名は、その独特な文体や表現法から来るものとのことで、彼の作品に魅了され続けてきたファンは数多い。

 個人的なブラッドベリ作品への感想は、昨夏に短編集「とうに夜半を過ぎて」について記事を書いた際に書かせてもらっているが、彼の作品の美しさを感じ取れない、己の感受性のニブさを露呈しただけかもしれない。
 その際「原文で読むだけの英語力があったなら、(ブラッドベリ作品の)本来の味わいを堪能できたのかもしれない」と書いたが、今回の訃報を聞いてちょっと確認がてら調べていたら
「ブラッドベリ作品は翻訳すると難解なことがあるが、原文で読むととてもわかりやすいそうだ」
てな記述を見かけて、やっぱりそうなのかー……と少し納得した次第。

 改めて思うのは、作品のタイトルがおしゃれというか、まさに詩人だよなぁ、と。
「華氏451度」(Fahrenheit 451)
「何かが道をやってくる」(Something Wicked This Way Comes)
「塵よりよみがえり」(From the Dust Returned)
「太陽の黄金の林檎」(The Golden Apples of the Sun)
「10月はたそがれの国」(The October Country)
「ウは宇宙船のウ 」(R Is for Rocket)
etc……

 ……"R Is for Rocket" の邦題を「ウは宇宙船のウ 」にした人物(編集者?)の感覚もいいよなぁと思うw

 今日のタイトルは"巨星墜つ"としたが、星になったと考える方がむしろぴったりかもしれない。

 R.I.P. Ray Bradbury

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