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「シルヴァー・スクリーム」 [Book - Horror/SF/Mystery]

「映画」をテーマに据えたホラー・アンソロジー。上下巻。

「シルヴァー・スクリーム」編)D・J・スカウ(創元推理文庫刊) 

◆内容紹介(裏表紙より)

銀幕(スクリーン)から、恐怖がしたたる
映画にまつわるホラー作品を頼む―そんな編者スカウの呼びかけに応じた、ホラー界のスター作家たち。誰にも触れられていないのに突然体に傷がつくという怪異が映画監督を襲うウィルスンの傑作「カット」、青春の思い出が残るドライヴインシアターを再興した男を描く、ノスタルジックなウィリアムスンの「〈彗星座〉復活」など、怪作・傑作が満載の映画ホラー・アンソロジー!
(上巻)

劇場(シアター)こそ、悪夢の聖地
ホラー映画のタイトルを交えながらストーリーが展開するウィンターの異色作「危険な話、あるいはスプラッタ小事典」、重大な決意をした女性の姿を異様な迫力で描くスキップの「スター誕生」、閉館した映画館で男が出逢う戦慄の体験を綴るキャンベルの「廃劇場の怪」。最高のホラー作家たちが生み出した、この世にあってはならない悪夢が集う、究極の映画ホラー・アンソロジー。
(下巻) 

 アメリカで原書が出版されたのは1988年。25年経ってやっと邦訳が出るなんて(創元版は昨年11月に出た)、いくらなんでも時間がかかり過ぎでしょうに、と思う。だがそれ故にあの、何につけても活きがよかった時代ならではの、悪趣味で喧しくて猥雑で下品なホラーの逸品の数々を、久しぶりに、しかもたっぷりと堪能できた。それは多分に、編者であるD.J.スカウの趣味と嗜好によるものではあろうが。

 収録作品は以下の通り。 

  • 前口上 (T・フーパー)

  • 幻燈 (ジョン・M・フォード)
  • カット (F・ポール・ウィルスン)
  • 女優魂 (R・ブロック)
  • 罪深きは映画 (R・ガートン)
  • セルロイドの息子 (C・バーカー)
  • アンサー・ツリー (S・R・ボイエット)
  • ミッドナイト・ホラー・ショウ (J・R・ランズデール)
  • 裏切り (K・E・ワグナー)
  • <彗星座>復活 (C・ウィリアムスン)     ……【上巻】  
  • 夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ (R・R・マキャモン)
  • バーゲン・シネマ (J・シェイクリー)
  • 特殊メイク (C・スペクター)
  • サイレン/地獄 (R・C・マシスン)
  • 映画の子 (M・ギャリス)
  • 危険な話、あるいはスプラッタ小事典 (D・E・ウィンター)
  • スター誕生 (J・スキップ)
  • 廃劇場の怪 (R・キャンベル)
  • カッター (E・ブライアント)
  • 映魔の殿堂 (M・アーノルド)

  • とどめの一撃(エンド・スティック) (D・J・スカウ)  ……【下巻】

 『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパー監督による、映画人らしい趣向を凝らした序文「前口上」と、編者スカウによる、これまた凝った作品解題+作家紹介である「とどめの一撃」を含め、上下巻あわせて21篇。
 出版当時は書き下ろし(一部発表済作品も含まれる)のホラー・アンソロジーとして出たものの、1/4世紀前のものとなれば他アンソロジーや短編集に収録されたものも少なくなく、既読作品もいくつかあった。
 それもまぁ、よしと。

 作家自身が(作品の映画化に際し)体験した問題や不満が活かされた?とにかく痛い「カット」、旧き佳きハリウッド映画へのノスタルジーに満ちた「女優魂」、子供vs異常犯罪者というよくある構図と思わせておいて、曲者ガートンらしい展開にうわぁ……となる「罪深きは映画」。男に裏切られ、文字通り全てを失った元女優の復讐を描いた「裏切り」を読むと、やはり女という生き物は強いのだなぁとつくづく思う。(以上、上巻

 マキャモン「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」は、著者唯一の短編集『ブルー・ワールド』で既読。訳者による序文にもあるように、アメリカでも日本でもかつてのヒーローが現在の文法でリメイクされ、人間的な苦悩や逡巡が描かれるようになった今日の方が、むしろ時代に即しているんじゃないかと思ったり。「特殊メイク」は特殊メイクアップ・アーティストがクズな監督へ復讐する話。本アンソロジーではこの作品を含め、復讐にヴードゥーの呪術を用いるものが3篇あるが、当時はヴードゥーが流行りだったのか?あと、ネズミ嫌いな方は読まない方が吉。
 キャンベル「廃劇場の怪」は、ハリウッドB級ホラー風味の作品が並ぶ中、やや趣を異にする静かな怖さ。ま、この作家の作品は常にこういう感じだが。そして、覆面作家M・アーノルドの「映魔の殿堂」は、ラストを飾るに相応しい大怪作。B級C級スプラッタ・ムービー、メタル、パンク、Love & Peaceが横溢する猥雑な展開だけでもその熱気に中てられそうなのに、終盤の驚天動地の悪趣味さにはただただうひゃあと笑うしかない。これぞスプラッタ・パンク。訳者序文にあるように、この作家の正体は……でしょうねぇ。(以上、下巻

 80年代のものがエネルギッシュでよかった―と感じさせるのは、何も音楽や文化ばかりではなく、ホラー小説というニッチなジャンルにおいても言えているようで。

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Sou

ご無沙汰いたしております。

本書は購入を随分迷っていたのですが、とりあえず見送ってそのまま、しかし、今また、興味がわきつつあります。

F・ポール・ウィルスンの映画への不満、というのは当然、WW2時のルーマニアを舞台としたかの作品かと思いますが、私、実は原作よりもこの映画の方が好きだったりします(苦笑)
まあ、それはあくまで趣味の問題でしょうが、ミリタリー考証はかなり凝ったところのある作品ですから、雰囲気があってよかったのですけれどね。

Blogの方も再開しました。
よろしければ、変わらぬ御友誼のほどをお願いいたします。
by Sou (2014-07-16 21:15) 

るね

>Souさん

こちらこそ、ご無沙汰しておりました。
以前、ブログを移転されたとお知らせをいただいた後、その移転先が見つからないので、どうしたかなぁ、と。
その後私もしばらく休んだりしておりましたが。

お知らせいただき、本当にありがとうございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

>F・ポール・ウィルスンの映画への不満、というのは当然、
>WW2時のルーマニアを舞台としたかの作品かと思いますが、

ご明察です。「城塞(ザ・キープ)」ですね。
私は例によって原作(角川版)しか読んでいないのですが……。

小説も映画も愉しまれるSouさんのことですので、本書もかなり愉しめるのではないかと思います。B級、下品系に振った作品が多いですけれども(^^;)

by るね (2014-07-17 01:41) 

kazuou

こんにちは。

ホラー好きで、かつ映画好きにとっては、理想のテーマ・アンソロジーでした。
刊行予定の噂があったころから、ずっと待っていたアンソロジーだったので、感無量ですね。読み応えも十分で、長年の渇が癒された感じです。

モダンホラーのアンソロジーは、1990年代の後半からずっと紹介が途絶えているので、けっこうな数の未訳アンソロジーがあるんでしょうね。これが呼び水になって、他にもアンソロジーが刊行されるのを期待したいです。
by kazuou (2014-07-19 18:57) 

るね

>kazuouさん
ご訪問とコメント、どうもありがとうございます。

邦訳刊行の予定はそんなに前からあったのですね。でも、確かにこの内容、この執筆陣で、あのモダンホラー・ブームの頃に出なかったのは、ホント不思議です。

英米怪奇小説のアンソロジーはそこそこコンスタントに出ていますが、モダンホラーのそれはここ10年以上ぱったりですよね。
本邦初訳でも復刻でもいいので、モダンホラー・アンソロジーの刊行が進むことを、自分も願っています。

by るね (2014-07-20 00:39) 

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