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「ナイトランド Vol.7」と無期休刊 [Book - Horror/SF/Mystery]

 残念ながらこの5月に休刊が発表された、“幻視者のためのホラー&ダーク・ファンタジー専門誌”「ナイトランド」。
 昨秋(9月)に刊行された第7号の巻末に、第8号が出るのが翌夏(つまり今年夏)まで延びる―という発表が載ってたのを見て、一抹の不安はあったのだが……。

  これまでのいくつかのホラー専門誌と同じく、僅か1年半、7冊という短命で終わってしまった「ナイトランド」。

 まだまだ日本の読者に読んで頂きたい物語、触れて頂きたいアートが数えきれないほど残っていることを思えば、我々の力不足が口惜しくてなりません。 現在の社会的環境が、怪奇幻想の種が芽吹き、大きく育って、花を咲かせるには、あまりに厳しいものであることを痛感しています。(「休刊の辞」より)  

 先日紹介した「シルヴァー・スクリーム」が、原書が出て25年近く経ってやっと邦訳版が刊行された―という状況からしても、モダンホラー関連の出版状況というものは厳しいものがあるのか。創刊号についての記事で挙げた「ホラーウェイヴ」(ぶんか社)を手がけた東雅夫氏が、最近では怪談系の方に傾注して(しかも怪談系はご存知の通り、よくもネタ切れしないなというほど、毎月のように様々な新刊が並ぶ)、モダンホラーに関してはほとんど触れなくなっている状況も、それをよく表している……ような気がしないでもない。邪推?

 とはいえ、全く読めなくなってしまったというわけでなし、元々マイナーでニッチで、しかし根強くもあるジャンルなのだから、嘆いても仕方ないことだろう。かつてのように、ブームに便乗して粗製濫造された粗悪品を読まされる機会が増えるよりマシか。

 ということで。
 まだ記事にしていなかったVOL.7のテーマは「妖女」。同時に、昨年6月に逝去した巨匠、リチャード・マシスンの追悼も特集として組まれていた。

「ナイトランド Vol.7」(発行:トライデント・ハウス/㈱インターカム)

  • 【特集】妖女
    <特集解説>
    マグダラ扁桃体 ルーシー・A・スナイダー(2012ブラム・ストーカー賞短編賞受賞作)
    サディスティックな少女たち マット・レイション
    カーリー グリン・バーラス
    ナイチンゲール サイモン・ストランザス
  • ≪ショートショート≫ 墓地の恋人たち ブライアン・M・サモンズ 
  • 【連続企画】夜の声<ホラーの巨匠:作品とインタビュー>
    特別編 リチャード・マシスン追悼
    ≪作品再録≫死線/≪インタビュー≫ダーク・ドリーマー
    ≪追悼エッセイ≫マシスン短編の魅力 仁賀克雄/その日どこかで 井上雅彦/おのれの現実を書き続けた作家 瀬名秀明
  • 【特別掲載創作】
    インビジブル 立原透耶
  • 【連続企画】センス・オブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー
    第3回 光瀬 龍
    ≪名作発掘≫哨兵 (選・解説:井上雅彦)
  • 【エッセイ】
    カッシング・オン・スクリーン2 菊地秀行
    新雑誌≪MONSTERZINE≫創刊! 植草昌実
    クトゥルー・ミーツ・アメリカンコミックス(後) 森瀬 繚
  • 【連載小説】
    The Faceless City 第二章 死都アーカム
    #2 依頼者の名は"空白"
     朝松 健
  • 【連載コラム】
    ≪リレー・エッセイ≫私の偏愛する三つの怪奇小説
    究極の恐怖は「定義できないもの」
     山本 弘
    金色の蜂蜜酒を飲みながら(7) 朱鷺田祐介
    【ホラー&ダーク・ファンタジー書評】Night Library 笹川吉晴
    その他 立原透耶、鷲巣義明、マット・カーペンター

”妖女”テーマの4篇は、どれもそれなりにグロテスク。
「マグダラ扁桃体」は伝染病、ウイルス、吸血鬼といったガジェットが登場するが、その結末は……これか。ゴミ箱に放火した罰としてある墓地の草刈りを命じられた若者が遭遇する悪夢「サディスティックな少女たち」は生理的嫌悪感の高いクトゥルー話。片腕を失い、今はドラッグ密売に手を染めている帰還兵。彼に貸与された女性型介護アンドロイドがふとしたことから暴走を始める「カーリー」「ナイチンゲール」は、ナイトクラブの歌姫に恋い焦がれ、消息を絶った友人。主人公もやがて歌姫に惹かれていくが、彼女の正体は恐るべき、そしておぞましいものだった。4篇の中では、この作品が最も”妖女”というテーマに沿っているような。
 ショートショート「墓地の恋人たち」は、エログロの極致?であるネクロフィリアを書いたと見せかけて……悪趣味な笑いがつい出てしまう。 これもまぁ、”妖女”テーマに沿っているか。

 ホラーの巨匠へのインタビュー+作品で構成される『夜の声』は、昨年6月に世を去ったR・マシスンの追悼企画。短編「死線」はおとぎ話のような奇想から、ラスト1行に厭なオチが待っている。マシスンの真骨頂か。また、この企画では、仁賀克男、井上雅彦、瀬名秀明が追悼エッセーを寄せている。 

 黎明期の日本SF作品をホラーの立ち位置から採り上げる『センス・オブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー』。第3回は光瀬龍「哨兵」。ある手紙を受け取ったことから、戦時中のある不可解な体験を改めて調べ始めたSF作家の”私”。だが調査を進めていく中でも、さらに不可解なことが起こり……。著者の実体験を交えながらも、サスペンスフルな展開はけっこう怖い。それだけにオチ(正確にはオチ前の謎解き)の落差が。これも時代なのかな?

 国内作家の短編は、立原透耶「インビジブル」。大学で中国語を教える女性講師のクラスには、彼女にだけ見えないヤマノ キョウコなる女子学生がいた。講師も次第に彼女の存在に慣れていくが……。主人公にだけ見えないヤマノ キョウコとは何者だったのか。結末は半ば予想はできるものの、これもかなり厭だ。よくよく考えてみたらこの短編も”妖女”テーマではあるな、と。
 ちなみ本作は、2011年にイタリア、及び日本SFの英訳本で発表されたものだそうで、日本語版ではこれが初収録なのだとか。

 本誌編集長を務めた植草昌実氏が、今年6月末に発売された「ハヤカワ ミステリマガジン」8月号の中で、海外ホラー小説の作家、作品群として、「ナイトランド」に掲載された作家らを紹介している。購入希望者を募り、一定数が集まったら出版する予定だった≪ナイトランド叢書≫の計画も、本誌休刊と同時に中止となったようだが、願わくばこれらの作家らの紹介が今後も続いていって欲しい、と切に思う。叢書で刊行する予定だった内容で、別の出版社から出されたりしない、かなぁ。

 というか、朝松健氏の連載「The Faceless City」はどうなっちゃうの?! 

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