「もっと厭な物語」 [Book - Horror/SF/Mystery]
読後感最悪、なバッドエンド・ストーリーを集めたアンソロジー、第2弾。
◎「もっと厭な物語」 夏目漱石、C・バーカー他 著(文春文庫刊)◆内容紹介(帯&裏表紙より)
読後感、極悪。だが、それがいい!
愛や涙や感動は完全排除、バッドエンド100%!!!
最悪の結末、不安な幕切れ、絶望の最終行。文豪・夏目漱石の不吉きわまりない掌編で幕を開ける「後味の悪い小説」アンソロジー。人間の恐怖を追究する実験がもたらした凄惨な事件を描くC・バーカー「恐怖の探究」、寝室に幽閉される女性が陥る狂気を抉り出すC・P・ギルマンの名作「黄色い壁紙」他全十編。あなたの心の闇を浄化します。
”イヤミス”ブームの流れに乗って?昨年刊行された「厭な物語」がけっこう好評だったのか、早くも今年2月に敢行された第2弾。邦訳作品のみだった前回から、今回は夏目漱石を始め日本人作家の作品が4篇採り上げられている。
なぜ後味悪い作品を、しかも読んだらきっと厭な(それも”嫌な”ではなく、”厭な”)読後感を味わうことは必定なのに読みたくなるのか。その辺りの何とも言い難い心理は本書の解説をはじめ、Web上にある様々な方々のレビューで言い尽くされているとは思うが、やはり―読書体験の中で厭な思いをした後、本を閉じて「あぁ、これは本の中のことだったのだ」と、安堵したいからなのだろう。
全10篇。
- 『夢十夜』 より 第三夜 (夏目漱石)
たしかに自分の子である。ただ不思議な事にはいつの間にか眼が潰れて、青坊主になっている。自分が御前の眼はいつ潰れたのかいと聞くと、なに昔からさと答えた。
冒頭からこれかい、もう既に厭な感じ。
”文豪”漱石のニューロティックな貌を伺うことができる一篇。 - 私の仕事の邪魔をする隣人たちに関する報告書 (E・ケアリー)
建物の6階に住む自称イラストレーターが「自分の仕事がなぜ進まないのか」という理由について、奇妙な隣人たちの観察記を延々書き連ねる、という体裁。魚だけがかかる病気を患う婦人、始終口笛を吹いている若者、新聞を売りつけるスパイ、屋上でタバコを吸う犬を飼う老人、猿の子を母乳で育てる若い女性……その筆致はスラップスティックで毒のあるコメディーのようだが……奇妙、否異常なのは果たして何方なのか。 - 乳母車 (氷川瓏)
僅か3ページの掌編。月の白々した夜には読むもんじゃない。ギイギイという音がまた厭。 - 黄色い壁紙 (C・P・ギルマン)
神経衰弱を患い田舎に転地療養に来たはずの婦人が、さらに孤独感を深め精神を病んでいく……。
『淑やかな悪夢』(創元推理文庫)収録時とは訳者が変っているが、こちらの訳文の方がヒステリー度がより高いような印象。静かに狂っていく雰囲気が出ているあちらの方が、個人的には好みではある。 - 深夜急行 (A・ノイズ)
幼い頃に読んだ本は、その中の1枚の挿絵が怖くて最後まで読み通せなかった。大人になったある日、主人公はその挿絵のままの情景に入り込んでいた。
お馴染みの無限ループ、不条理パターンではあるが、挿絵がここでいい役割を果たしている。 - ロバート (S・エリン)
前回収録のハイスミス「すっぽん」は母と息子の物語だったが、こちらは10歳の少年と、オールド・ミスの担任教師とのディスコミュニケーションが招く悲劇……なのか?アンファン・テリブルものと考えれば理解しやすいのかもしれないが、単純にそうなのか、何度か読み返しても今一つピンとこない。厭な味であることに間違いはないが。 - 皮を剥ぐ (草野唯雄)
今回の収録作で最も生理的、感覚的な厭さを味あわされるのがこれ。まだ日本がここまで豊かでなかった頃の昭和の情景なんだろうか。こういう言い方は不適切なのかもしれないが、穢いもの、悪趣味なもの、おぞましいものをこれでもかと見せつけられる”厭さ”。 - 恐怖の探究 (C・バーカー)
かつて『血の本』で既読。第2巻の「ジャクリーン・エス」収録の時とはタイトルが変更されているそうだが、このタイトルでもあぁ、あれだなとわかる。
他人の心底にある「恐怖」を引きずり出すためを、忌まわしい実験を繰り返す男。実験は成功したようで……クライマックスの幻想的かつ酸鼻極まる描写は、当時のバーカーならでは。 - 赤い蝋燭と人魚 (小川未明)
有名な童話。
小学校低学年の頃に読んだ際、悪い人間は皆報いを受けたはずなのに、なぜかめでたしめでたしという気になれず、読後なんとももやもやした気分になったものだが、人間の強欲さ、弱さを見せつけられたのが子供心にも響いたからだろうか。 - 著者謹呈 (L・パジェット)
この作品の前に編集部による作品解題と解説がある―そう、第1弾のブラウン「うしろをみるな」と同じく、最後に置かれた作品には 最終行に仕掛けがある。これはもう、そのまま順を追って読むのが正しい楽しみ方だろう。
前回の収録作と比較して、今回は純ホラーあるいは怪談、怪奇小説として書かれた(であろう)ものがいくつかあるが、個人的感触としては、前回より”厭さ”はやや目減りしたような。というか、 前回は胸やけのような、皮膚感覚的に厭な感じを受けるものが多かったのに対し、今回は……読後に腹の底にどよんとした―黒く小さいもやのようなものがしばし残るような感覚というか。
決して愉快な感覚ではない、むしろ不快なのに、第3弾が出たら必ずまた読んでしまうんだろう。
毒の味は得てしてクセになるもので。
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