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乱歩没後50年とミステリマガジン [Book - Horror/SF/Mystery]

 今年は江戸川乱歩没後50年にあたるそうで。
 昨年がちょうど生誕120周年にあたっていたこともあり、書籍をはじめ各メディアで乱歩にちなんだ企画が昨年あたりから続いている。
 もとより、没後50年も経つ作家の著作が―初期ならば80年以上前に書かれた作品から、長編短編含めて、ほとんどが今もなお新刊で読めるというのは、 単純に凄いことと思う。

 '04年に乱歩の生誕110周年、立教大学創立130周年を記念して、旧乱歩邸と土蔵(いわゆる”幻影城”)が一般公開された際に足を運んだのだが、その時の写真が見つからず……。

 で、毎夏恒例のハヤカワ・ミステリマガジンの「幻想と怪奇」特集。
 今年は「乱歩輪舞ふたたび」と銘打って、去年に引き続いての乱歩特集。

「ハヤカワ ミステリマガジン」2015年9月号(早川書房刊) 

◆内容紹介(前書きより一部抜粋)
 江戸川乱歩の没後50年を記念して、昨年に引き続いて乱歩特集をお送りする。

 今回は、乱歩の「人間豹」(抜粋)を中心に、乱歩と同世代の英国怪奇幻想作家A・E・コッパードの同趣向の作品「銀色のサーカス」を、、西崎憲氏による新訳で掲載、さらに「人間豹」を原作にした歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪」の脚本を抜粋掲載する。
(中略)
 なぜ乱歩作品は、さまざまなメディアで、形を変えて繰り返し取り上げられるのだろうか。今回の特集がそれを考える一助になればと思う。(後略) 

  • 【資料と研究】
    人間豹変幻 新保博久
    座談会―現代へと続く江戸川乱歩 日下三蔵×新保博久×千街昌之
  • 【乱歩変奏】
    銀色のサーカス A・E・コッパード/西崎憲訳
    人間豹(一部抜粋) 江戸川乱歩
    江戸宵闇妖鉤爪(一部抜粋) 岩豪友樹子
    <連作短編“犯罪乱歩幻想”/第4話>夢遊病者の手 三津田信三
    etc……

 今年は、数ある乱歩作品の中から、名探偵明智小五郎と豹の目を持つ怪人恩田が対決する長編「人間豹」をフィーチャー、熊の着ぐるみを被せられた明智夫人が本物の豹と対峙させられるクライマックス前のシーンを採り上げ、このモチーフが主体となった短編「銀色のサーカス」や、「人間豹」の舞台を幕末の江戸に移した現代歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪」を紹介……という趣向。

 乱歩作品には先行する内外の作品からの影響、借用、本歌取りが多いことは有名であり(安直にパクリと言う勿れ)、そんな乱歩ワールドに影響され、後年さらなる作品が生まれていく―それを今回は”乱歩輪舞”と呼んだようでもある……が、<幻想と怪奇>特集で乱歩を採り上げた割に、内容は今一つ薄い(新保博久氏の評論や「銀色のサーカス」訳者の西崎憲氏の解説など、個々は面白いのだが)。

 これは一年前も同様に感じていたことではある。

「ハヤカワ ミステリマガジン」2014年8月号(早川書房刊)

◆内容紹介(前書きより一部抜粋)
「大乱歩」という言葉がある。江戸川乱歩に対する尊称だ。

 作家として、編集者として、ミステリ評論家として、海外ミステリの紹介者として、日本ミステリ界の立役者として、その功績は計り知れない。
(中略)
 乱歩が、探偵小説よりも、のちに「エロ、グロ、ナンセンス」と呼ばれる退廃趣味の幻想怪奇小説や犯罪小説で頭角を表し、やがてミステリを根付かせる活動のなかで、この分野の翻案小説の発表や翻訳小説の紹介に努めたことは、今日の日本における幻想怪奇小説の礎となっている。(後略)

  • 【短編競作】
    目羅博士の不思議な犯罪 江戸川乱歩
    蜘蛛 H・H・エーヴェルス
    見えない眼 エルクマン・シャトリアン
    月の下の鏡のような犯罪 竹本健治
    <連作短編“犯罪乱歩幻想”>屋根裏の同居者 三津田信三
    風鈴 マージェリー・アリンガム
    甦ったヘロデ王 A・N・L・マンビー
  • 【資料と研究】
    旧江戸川乱歩邸について 落合教幸
    乱歩輪舞―江戸川乱歩の連想と回帰 新保博久
    ポーと乱歩の二十一世紀 巽孝之
    マージェリー・アリンガム解説(『幽霊の死』より) 江戸川乱歩
    etc……  

 ミステリ作品ではありながら怪奇色の強い「目羅博士の不思議な犯罪」をフィーチャーしたのを始め、エーヴェルス「蜘蛛」や竹本健治による「目羅博士~」の後日譚といえる「月の下の鏡のような犯罪」などなど、特集のボリュームでいえば今年よりはずっと厚みがあったことは確か。だが、せっかく<幻想と怪奇>特集で乱歩を扱うなら、ミステリに拘泥せずに、幻想色、怪奇色の強い短編をフィーチャーしてもよかったのではないか……と思うのは、自分がそちら方面を偏食する人種だからだろうか。

 今年からの隔月刊化以後、初めて本誌を購読したのだが、雑誌自体の厚みは増えた分、連載小説―それも日本人作家による―の頁数が大幅に増えていることに気付く。長中篇連載が5篇もいるのかな、と。小説誌なら連載作品があるのも当然だろうし、定期的に購読している人にとっては問題ないのだろうが、特集内容によって年に1、2回購入する自分のような者には、連載部分に興味を持てないとその分無駄になってしまったような気も。しかも日本人作家のものなら他の小説誌でもいいだろうし、それをミステリマガジンでやらんでもいいだろ、と。

 一年後?の<幻想と怪奇>特集では、どうなりますやら。

 最後に、乱歩の作品世界をおさらい、あるいはさらにディープに知る上での副読本を。

「生誕120周年 江戸川乱歩の迷宮世界(洋泉社MOOK)(洋泉社刊)

「乱歩ワールド大全」野村宏平著(洋泉社刊)

「江戸川乱歩の迷宮世界」は”生誕120周年”とあるように、昨夏に刊行されたもの。乱歩マニアにとってはさして目新しい内容はないらしいが、全小説114作品について(ネタバレにならない程度の)詳解が載るなど、普通?のファンやこれからハマろうという読者にとってはちょうどいいガイドブックではないかと思う。自分もどちらかといえば後者だし、新たに興味を惹かれる未読作品もあったので。

 対して「乱歩ワールド大全」は今春の刊行。未読なのだが、ネット上の書評を見るとマニアにも満足が行くくらいの内容の濃さだそうで。興味は湧くのだが、こういう”濃い”ガイドブックを読んだだけで、本作を読まずに満足してしまいかねない危険性wもあるわけで、ってそんなのは自分だけ?

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コメント 2

kazuou

トラックバックありがとうございます。

 近年の『ミステリマガジン』の特集って、やっぱり薄味に感じますよね。<幻想と怪奇>以外の特集でも、企画としては面白いと思うものもあるのですが、その場合でも満足度が低いです。隔月刊でこの水準だと、ちょっとどうかと思いますよね。翻訳ミステリ誌というより、一般誌化が進んでいるというか…。

 <幻想と怪奇>も、再録なら再録でもいいのですが、もっと作品数を増やしてほしい、というのが正直なところです。翻訳短篇がどんどん減ってるのは、翻訳権の高騰とかコスト削減とかなんでしょうか。それならエッセイとかブックガイドとかを入れたりすればいいような気が…。

 『乱歩ワールド大全』は、分類が細かくて、怪獣図鑑を読むような楽しさがあります。ネタバレ前提のところがあるので、未読作品がある場合、先に読まないほうがいいかもしれません。
 『江戸川乱歩の迷宮世界』は、購入していないのですが、これも面白そうですね。
by kazuou (2015-08-15 08:43) 

るね

>kazuouさん
コメントありがとうございました。またTB承認、そして本記事へのTBもありがとうございます。

HMM誌の翻訳作品の掲載数の少なさ、これはリニューアル(隔月刊化)も影響しているんでしょうか。翻訳作品は<ナイトランド・クォータリー>でも読めますが、あちらも先行きは未知数ですし……。
以前のように、<幻想と怪奇>特集で掲載した作品が何年分か貯まったら、ハヤカワ文庫からアンソロジーで出版するなんてことは、もう難しいんでしょうか。
by るね (2015-08-16 03:30) 

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