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「家が呼ぶ 物件ホラー傑作選」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 怪談やホラーの定番、家や賃貸部屋など住まいをテーマにしたアンソロジー。

「家が呼ぶ 物件ホラー傑作選」編)朝宮運河(ちくま文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
おそろしい家、奇妙な家、住みたくない家、不思議と惹かれてしまう家……「家」にまつわるホラー作品は古今東西人々の心を掴んで離さない。王道の屋敷、マンションにシェアハウス、様々なタイプの「物件」をモチーフ&舞台に据えた“逃亡不可能”な短篇を一堂に集結!怪奇好きからビギナーまで病みつき必至の贅沢な特選アンソロジー。

 Twitter上で編者さんが告知していたのを見て、発売とほぼ同時に購入→読了ってのは、積読山が高くなる一方な近頃の自分にはちと珍しい。
 幽霊屋敷テーマの長編なら国内外の傑作がいくつも思い浮かぶし、“曰く付きの物件”モチーフは実話系怪談では昔から王道中の王道だろう。生きていく上で不可分な「住まい」であるが故に、そこに纏わる怪異や恐怖というものが、多くの読者にとって身近なリアリティを持つってことなんだろう。
 本アンソロジーは「物件ホラー」という枠で括られつつも、定番ものだけにとどまらないバリエーション豊かなラインナップ。
 以下、収録作の手短な感想など。

(若竹七海)
 旧友の実家の差し向いの家の塀にあった妙なしみ。旧友が「私」に語ったその家と住人の顛末。
 著者と思しき「私」が友人から聞いた怪談―という体の一作。真相や因果関係は明らかにされたわけではないが、終始あっけらかんとした語り口調に、逆にこんなことは実際にあるんじゃなかろうかと思い始めてしまう。
ルームシェアの怪(三津田信三)
 4人でルームシェア(ハウスシェアか)する一戸建てに入居した女性。ある日から住人の一人の様子に違和感を覚えるようになり……。
 短編集で既読。著者は長短編問わず「家」モチーフの作品が豊富なので、本アンソロジーに作品が収録されると知った時どれになるかと思ったんだが、これでしたか。クライマックスの盛り上がりは正調“三津田節”といったところ。
 余談だが、著者自身がこのテーマで自選短編集を編むとしたら―という内容で作品を挙げるツィートをしていたので、是非とも実現させていただきたい。
住んではいけない!(小池壮彦)
 ここで実話怪談がいくつか。ど定番は「実は事故物件でした」ものから、何とも奇妙な話まで10篇。『岐阜の幽霊住宅騒動』は前世紀末に役所からマスメディアまで大々的に巻き込んだ騒動らしいが、寡聞にして知らなかった(汗。最後の『ドール・ハウス』のみ趣を異にし、少女たちのオカルト風ままごと遊びが禍々しく語られるが……妙な読後感が残る。
はなびえ(中島らも)
 調香師の主人公が元恋人の不動産屋の紹介で入居したマンション。住み心地は快適だったが、次第に使っていないはずのシャワーの音がし、さらに1階のラーメン屋が煮込む豚骨スープの臭いが気にかかるようになる。
 ホラー連作短編集「人体模型の夜(集英社文庫)」からの1篇。予想通りの“曰く付き物件”ホラーなのだが、文体や雰囲気から平成初期、バブル末期の空気が漂って懐かしい。返す返すも中島らも氏の急逝が惜しまれる。「人体模型の夜」も一回買い直そうかしらん。
幽霊屋敷(高橋克彦)
 幽霊が出ると噂になっている空き家を深夜に訪れた男性。その家は嫁いだ後に事故で亡くなった娘が住んでいた家だった。
 娘の幽霊が自宅に居付いたこと、様々な怪異が頻発したこと、それらの理由が明らかになる結末が短くキレがいい。物悲しい話で終わるかと思いきや、ラスト1行でゾッとさせられる。
くだんのはは(小松左京)
 もはや内容の紹介など無用、講釈など蛇足、な昭和ホラー短篇のマスターピース。多くの場合終末テーマか怪物テーマで括られる作品なのだろうけど、これを「物件」ホラーで採り上げて来たか、と。確かに作中の“お屋敷”は、時代背景と相俟って一層印象に残る。
倅解体(平山夢明)
 長年自室に引きこもり怪物化した息子。疲れ果て老いた両親は息子を始末しようとする。
 とにかくまとも(そう)な登場人物が1人として出てこない。普通の会話ですらコントのようであり、狂気や異常性を感じさせるようでもあるのはいかにもこの著者らしい。が、程度の差はあれこういう話は実際に起きているわけで。
U Bu Me(皆川博子)
 田舎の古民家へ転居した女性が「あなた」へ宛てたメールの体裁で語る、が……。
 当初の近況話が次第に不穏さを帯びていく。女性が「信頼できない語り手」であるのは、「病院の廊下を臍の緒を垂らして這う胎児」の話で序盤に提示されているのだが、彼女が狂気に至ったのはいつなのか、理由はその家なのか、そもそも何が起こったのか
「あなたには、どうでもいいことですね」……そうですね。
ひこばえ(日影丈吉)
 都心の片隅にある洋館が気になった主人公は、知人の探偵に依頼しその家を調べ始める。
 恐ろしいのは家に取り憑いた存在ではなく、○○だった、という話。タイトルの意味がわかるラスト1行で、その恐ろしさが文字通り色を帯びて鮮やかに立ち上がってくる。
夜顔(小池真理子)
 病弱な上に孤独な女子大生が、散歩の中途出会った瀟洒な住宅に住む3人家族と細やかで穏やかな友情を結ぶ、が。
 幽明境を異にする者同士が、孤独さにより結び付く……恐ろしくも身に詰まされるのは彼らの存在よりもむしろ、主人公に宿痾のようにまとわりついた孤独かもしれない。小さな温もりの後に再び訪れる孤独と絶望―という点で、内容は全く異なるがM・ルヴェルの「フェリシテ」を思い出した。
鬼棲(京極夏彦)
 大正時代に建てられた洋館に独居する伯母を訪ねた主人公。会話を交わしていく内に、彼はその「家」の秘密を知らされる。
 掉尾を飾るのは、毛色の一風変った作品。「理路整然とした、それでいて不穏さを感じさせる台詞」による会話は衒学的でもあり、この著者の長編もこんな感じだったなと。「なぜ人は怖がるのか「なぜ幽霊は怖いのか」といった根源的な問題に一つの考察を提示している点でも面白い。



 考えてみると「家」「物件」テーマに絞ったホラー・アンソロジーはこれまで翻訳物も国内作品でもほぼなかったかもしれない(実話怪談系なら、MF文庫の「怪しき我が家 家の怪談競作集」があるけど)。その点でも本アンソロジーはかなり画期的なんじゃないだろうか。


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【訂正というか追加 '20.06.16】

 末尾に「『家』『物件』テーマに絞ったホラー・アンソロジーはこれまで翻訳物も国内作品でもほぼなかったかも」と書いてしまったが、このテーマの書き下ろしアンソロジーで、異形コレクション33巻「オバケヤシキ」があったなと思い出した
 三津田信三氏の作品で今回のアンソロジーに入るとしたら「見下ろす家」かなと当初思っていたたんだけど、それはこの『オバケヤシキ』収録でしたっけ……


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