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「エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 絵本作家、イラストレーターとして今なおフォロワーの多いエドワード・ゴーリーが、編者として作品選定、そして挿画(各編の扉絵)も手がけた、英米古典怪奇小説のアンソロジー。

「エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡」編)E・ゴーリー(河出文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
典型的な幽霊屋敷ものから、悪趣味ギリギリの犯罪もの、秘術を上手く料理したミステリまで、奇才ゴーリーによる選りすぐりの怪奇小説アンソロジー。古典的名作「猿の手」(W.W.ジェイコブズ)、「信号手」(C.ディケンズ)も収録。すべての作品に「何か」を予想させる、かなり怖いゴーリーの描き下ろし挿絵付き決定版。  

 収録作品はタイトル通り12編。

 空家  A・ブラックウッド
 八月の炎暑  W・F・ハーヴィー
 信号手  C・ディケンズ
 豪州からの客  L・P・ハートリー
 十三本目の木  R・H・モールデン
 死体泥棒  R・L・スティーヴンスン
 大理石の軀(からだ)  E・ネズビット
 判事の家  B・ストーカー
 亡霊の影  T・フッド
 猿の手  W・W・ジェイコブズ
 夢の女  W・コリンズ
 古代文字の秘法  M・R・ジェイムズ

 E・ゴーリーと聞くと、「ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで」「おぞましい二人」等のブラックな作風の大人向け絵本作家―という印象が強い。A~Zまで26人の子供たちの死に様を順に描いた「ギャシュリークラム~」、そして子供ばかりを狙った連続殺人カップルの実録に衝撃を受けて描いた「おぞましい二人」など、書店で立ち読みしただけでも、その後しばらく胃の下部辺りに何ともいい難い不快な重さが残るような感覚は忘れ難い。

 そんなゴーリーが、編集者としての顔も持っていたいたことを、本書で初めて知った。

 収録作品はハーヴィー「八月の炎暑」、ディケンズ「信号手」、ジェイコブズ「猿の手」など、英米怪奇小説のマスターピースでありこのジャンルのアンソロジーで幾度も収録されているものをはじめとして、ブラックウッド、M・R・ジェイムズにB・ストーカーなどどちらかといえば正統派な怪奇小説、ミステリが並んでいる。ラインナップを考えれば無難な怪奇小説アンソロジーだろうし、ゴーリーの絵本の作風から考えればかなり王道寄りというか、普通だよなぁ、と。
 その辺りを、濱中利信氏は巻末の解説の中で

・ゴーリーならば、怪談集を編むにあたって、読者自らの想像力で補うべき〈余白〉を残した作品ばかりを選ぶのではないか、と勝手に期待していたのだ
こんな作品ばかりが並んでいたら、食傷してしまうだろう
優れた読者としての直感で、『こう配した方が面白い』と判断しただけなのではないだろうか

と記している。
 作家となる以前に、編集者としてのバランス感覚が出ていたということか。

 扉絵に採用されたゴーリーのイラストは、作品内の雰囲気をいやが上にも高めてくれ、作品読了後にもう一度見返してゾッとすることも。
 隣接する家々の中、一軒の家だけが禍々しく浮かび上がる「空家」、日向と日陰のコントラストが見事な「八月の炎暑」、作品の陰惨さ、邪悪さが見事に表れている「判事の家」なども怖いが、強烈なのはやはり「夢の女」だろう。薄暗いバックに白いドレスを着て、ナイフを下向きに構えた女の姿は一見して強い印象を残す。もし本書を子供の頃に読んで、この挿絵を見ていたら……夢にうなされたかもw

 こういったジャンルの文庫に挿絵やイラストが入ることはまずないといっていいし、そもそも必要はないだろう。だが、たとえ何度も読んで内容を覚えているような作品であっても、挿画が1枚加わることで新たなイメージが与えられ、己の想像の中の作品世界にさらに深みやディテールが加わることも時にはある―ようにも思う。もちろん、ゴーリーの挿画はそういう効果を持っていることはいうまでもない。

 それは単に絵の巧拙の問題でなく、作品世界への理解と愛着によるものなのだろう。

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