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「ビッグ・ドライバー」 [Book - Horror/SF/Mystery]

「モダン・ホラーの帝王」スティーヴン・キングによる、2010年刊行の中編集"Full Dark, No Stars"から、既刊の「1922」に続く邦訳集。

「ビッグ・ドライバー」S・キング著(文春文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
小さな町での講演会に出た帰り、テスは山道で暴漢に拉致された。暴行の末に殺害されかかるも、何とか生還を果たしたテスは、この傷を癒すには復讐しかないと決意し……表題作と、夫が殺人鬼であったと知った女の恐怖の日々を濃密に描く「素晴らしき結婚生活」を収録。圧倒的筆力で容赦ない恐怖を描き切った最新作品集。

 内容紹介の通り、「1922」同様に”暗く容赦ない”2篇を収録。奇しくも、「1922」収録の2篇は男性が主人公だったのに対し、こちらは2篇とも、平穏な日常生活の中から突如恐怖と苦痛に見舞われた女性を軸に描かれている。

  • ビッグ・ドライバー
    コージーミステリ作家のテスは、小さな町での講演会の帰路、でっぷりと太った巨漢に暴行される。殺害されそうになりながらも、暴漢の目をかいくぐって逃げ出し、何とか自宅へと帰り着く。レイプされたという凄まじい苦痛が彼女の心身を苛むが、次第にこの悪夢が偶然ではなかったと考えられること、そして暴漢が暴行の後で自分を投げ入れた暗渠の中で見たものの記憶が、テス自らの手で男に落とし前をつけさせなければならない―ということを決意させる。

 あらすじをあげると上記の通りで、後はテスがいかにして暴漢(実は単独犯ではない)への復讐を遂げるかということのみ。女性の主人公が理不尽な暴力で蹂躙されるというのは、読んでいてもやはり不快だが、そこは”暗く容赦ない物語”だからなのか。とはいえ、J.ケッチャム作品のように文字を追う目を覆いたくなるような件が延々と続くわけではなく、むしろ良識を持った大人の女性であるテスが「復讐」という行為を決意し実行していく、その葛藤や心理描写が読みどころか。

 カーナビや飼い猫が擬人化されてテスと会話をする(恐らくはテスの深層心理の投影ということなのだろうけれど)描写、そして物語中盤でテスと出会う女性、ベッツィーとのラストの会話が、黒く陰惨な話にほのかな彩りを与えている。 

  • 素晴らしき結婚生活
    結婚27年目になる主婦のダーシーはひょんなことから、会計事務所を経営する夫ボブが、連続殺人鬼≪ビーディー≫である証拠をガレージの物置で発見してしまう。良き夫と信じ込んでいたボブの、怪物としての顔を知り、苦悩するダーシー。一方ボブは、妻が自分の秘密を知ったことに気付き、彼女に過去に自分が犯した行為を得々として語り出す……。

 何より、夫が連続殺人鬼という怪物であったことを知り、30年近く連れ添い、よき夫婦として幸せだったという幻想を打ち砕かれた時のダーシーの絶望と、そして秘密に気付かれたと知ったボブと対峙するシーンの会話は緊張感に満ちている。長年連れ添った夫婦ですら、お互い知り得ない、理解し得ないものはあるということか。ってダーシーは知りたくもなかったろうし、理解などできるわけもなかろうが。
 祝宴の夜、ダーシーがとっさに取った行動は、自分を欺いていた夫への復讐だったのか、あるいは。

 終盤で登場する元刑事ラムジーと、ダーシーの会話も緊張感に満ちてはいるものの、「1922」と本書に収録された4篇の中で、(あくまでもその中では)最も救いのある結末へつながるものとなっている。 

 上記の通り「1922」収録の2篇は男性が主人公であり、全く以て救いのないものとなっているのに対し、こちらの2篇は女性の主人公が恐怖と苦痛に突如襲われながらも、孤独の中で必死にそれに抗おうとしている―それが正しいのかどうかは別として。
 かくも女性は、男が知り、あるいは想像している以上に逞しい生き物ということなのか。

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なんだかなぁ〜!! 横 濱男

お早うございます。
最近は、書物は読まなくなりましたね。。

by なんだかなぁ〜!! 横 濱男 (2014-07-18 08:16) 

るね

>横 濱男さん
このところUpしている読書ネタは、昨年末~今年前半に読了したものばかりです。読了したものはけっこうたまってますので。

最近は本自体はぼちぼち買ってるんですが、仕事絡みで読む本が増えた分、自分の趣味の読書がすすみません……(^^;)
by るね (2014-07-18 23:50) 

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