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「なんでもない一日 シャーリィ・ジャクスン短編集」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 「くじ」「山荘綺談」「ずっとお城で暮らしてる」で名高いアメリカの女流作家シャーリィ・ジャクスン。没後四半世紀を過ぎた後に発見された未発表原稿を基に、彼女の遺族が編纂した短編集。

「なんでもない一日 シャーリィ・ジャクスン短編集」S・ジャクスン著(創元推理文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
家に出没するネズミを退治するため、罠を買うようにと妻に命じた夫が目にする光景とは……ぞっとする終幕が待ち受ける「ネズミ」。謎の追跡者から逃れようと都市を彷徨う女の姿を描く、美しい悪夢の結晶のごとき一編「逢瀬」。犯罪実話風の発端から、思わぬ方向へと話がねじれる「行方不明の少女」など、悪意と妄念、恐怖と哄笑が彩る23編にエッセイ5編を付す。本邦初訳作多数。 

 S・ジャクスンといえばやはり―この手の作品をある程度読み慣れた人の90%が連想するように―あの悪名高い(賞賛の言葉です)短編「くじ」である。数々のアンソロジーに収録され(最近でも文春文庫刊「厭な物語」に収録)ている、幽霊も怪物も超常現象もサイコキラーも登場しない、にもかかわらず心底ゾッとさせられる、恐怖小説のマスターピースでもある。

 また自分の場合、この作家の別の代表作である「山荘綺談」(※)を、ホラー小説の泥沼に嵌り始めた20年ほど前に読んでいる。その時の陰鬱な読後感に打ちのめされた印象が強いため、今以て再読できないでいる。
※当時はハヤカワ文庫NV刊。現在は「丘の屋敷」(創元推理文庫)と改題されて刊行されている。

 近年も創元から復刊された「ずっとお城で暮らしてる」を読んで、ジャクスン作品の毒を再確認したわけだが……。
 '13年初夏に読んだ小説誌「ミステリーズ Voi.54」で、ジャクスンの本邦初訳作品が掲載されていた。その際、彼女の個人短編集も刊行準備が進んでいる―という記事を読んでちょっと期待していたわけだが、その後情報が出てこないなぁと思っていたところ、やっと出てきたのがこの短編集(出たのは昨年10月ですが)。

 原本は54篇収録とのことだが、邦訳版はそのうち30篇が収められている。
「くじ」のイメージに連なるような、人間の悪意、妄念、妬み等々を描いた“厭な”味の作品が中心だが、その他にも幽霊譚、正統派のゴシック、いわゆる奇妙な話、軽妙なユーモア小説なども含まれ、この作家の幅広さを窺い知ることが出来る。
 個人的に気に入ったり、印象に残ったのは、

  • 「ネズミ」 一読では?となるが、ラスト3行の意味を考えつつ読み返してみると……。
  • 「悪の可能性」 「正しい行為だ」と信じて、人々の疑心暗鬼を巧みに引き出す上品な老女と、彼女が受ける報いとは。
  • 「アンダースン夫人」 夫婦間のディスコミュニケーションが招く結末。
  • 「メルヴィル夫人の買い物」 傲慢な夫人がデパートで買い物をすると……。辛辣なユーモアってこのことか。
  • 「レディとの旅」 初めての列車での一人旅、少年の横に座ってきたレディは親子のフリをしてくれるよう持ちかけてきた……何となくO・ヘンリ的な感じもある、結末さえも。
  • 「家」 正調幽霊譚。幽霊も怖いけど、ラストの主人公と店員の会話も考えようによっては、もっと怖いかも。
  • 「喫煙室」 女子寮の喫煙室に現れた悪魔とのコミカルなやり取り。ここには悪魔より怖い存在が居た、とw
 そして、この作家のイメージを一変させられるのが、巻末に5篇収録されたエッセー。

 年頃になった息子に手を焼き(「男の子たちのパーティ」「不良少年」)、画家と間違われて落ち込み、突然家事を放り出して車で1泊2日の旅に出て行く(「車のせいかも」)、不良品のテープレコーダーを送ってきた通販会社との2年にわたる不毛なやりとり(「S・B・フェアチャイルドの思い出」)、息子が所属するカブスカウトの組の責任者になる(「カブスカウトのデンで一人きり」)……仕事と家事の両立に奮闘した日々の生活がユーモアたっぷり、そしてほんの少しビターな味を忍ばせて描かれている。
 そこにあるのは妻、そして母親として家族に愛情を注ぐパワフルかつユーモアのある一人の女性の姿だが、まさかジャクスンの作品でここまで爆笑させられるとは思ってもみなかった。 

 この短編集編纂の中心となったのは、エッセーにもたびたび登場する長男ローリー(ローレンス)と、次女のサリー(サラ)である。48歳という、作家としてはまだまだこれからだった時に早世した母親の様々な側面を―「くじ」やその他の有名作品でしか知らない人々へ―知ってもらいたいという思いだったのかもしれない。であるとしたら、その試みは成功しているのだと思う。

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