「ナイトランド・クォータリー Vol.02」 [Book - Horror/SF/Mystery]
昨年9月に刊行されていたホラー&ダーク・ファンタジー専門誌、新創刊の第2号。
購入後すぐ読了していたが、記事としてUpするタイミングを逸していた。
◎「ナイトランド・クォータリー Vol.02」(アトリエサード刊)
◆内容紹介
幻視者のためのホラー&ダーク・ファンタジー専門誌《ナイトランド・クォータリー》Vol.02は、〈クトゥルー神話〉の地図に新たな領域を広げる作品を特集! 恐怖の探求へとあなたを誘います。
- 【特集】邪神魔境
神の石塚 ロバート・E・ハワード
狂気の氷原へ B・M・サモンズ
熱砂の妖虫 D・コーニアス
悪夢の卵 J・リノールズ
呪われしパンペロ号 W・H・ホジスン
ルルイエの黄昏 C・パラディアス
≪一休どくろ譚≫魔経界 朝松健
北極星 間瀬純子 - 【コラムなど】
Night Land gallery 東學~魔物としての女 沙月樹京
魔の図像学(2) C・D・フリードリッヒ≪雲海の上の旅人≫ 樋口ヒロユキ
ハワード紹介の新時代に向けて 中村融
ケルトの幻像と、破滅的ヒロイズム 岡和田晃
幽霊船と鯨―小説家になった船乗りたち 植草昌実
ブックガイド クトゥルー神話世界の地図 牧原勝志
未翻訳・クトゥルー神話セレクション 植草昌実
翻訳作品/創作解説
【書評】暁斎、妖怪、そして江戸の終幕 牧原勝志
その他……
第2号はテーマに「邪神魔境」と銘打たれていたので、前身である「ナイトランド」初期同様、クトゥルー神話系の作品ばかりか、と……正直(結局その路線に戻るのか)という思いがしないでもなかった。実際、巻頭にロバート・E・ハワードの作品を持ってきた他、それ以外の邦訳作品のうち3篇はクトゥルー神話の文脈に沿って書かれている。W・H・ホジスンはHPLの先達に当るが、この人の作品がHPLに多大な影響を与えたという意味では、そう言ってもいいかもしれない。
そこへ”魔境”という言葉をテーマとして入れたことで、単に太古の邪神、未知の超自然の恐怖に直面することを描くだけでなく、自らそれを探求していく「冒険」という意味合いを持たせた、のだとか。
ふむ。
ハワード「神の石塚」は、この作家の代名詞であるヒロイック・ファンタジー≪コナン≫シリーズを彷彿とさせる。そこに北欧神話+クトゥルー的ガジェットを遊びで盛り込んだようにも。 サモンズ「狂気の氷原へ」はHPLの大作「狂気山脈」のトリビュート・アンソロジーに書き下ろされたもの。むしろキャンベルの「影が行く(遊星からの物体X)」を思い出した。「熱砂の妖虫」はD・コーニアスによるフリーランス(!)のスパイ≪ハリソン・ピール≫シリーズの一作。敵対する組織はいかにも2010年代のものだな、と。悪夢の卵」は、ホジスンが産んだ名うてのゴーストハンター、≪幽霊狩人カーナッキ≫のパスティーシュ。カーナッキはWW1で戦死し(ホジスン自身に准え)たという設定で、後を継いだ助手のチャールズが活躍する。
そして、そのホジスンによる「呪われしパンペロ号」は、この人らしい海洋奇譚。併録されたコラム「幽霊船と鯨―小説家になった船乗りたち」ではホジスン他、J・ロンドン、J・コンラッドなど船員の経験を持つ作家と、メルヴィル「白鯨」とのつながりを類推して、なかなか興味深い。
パラディアス「ルルイエの黄昏」はHPL「超時間の影」の本歌取りというか前日譚らしいが、未読なので不明。
「≪一休どくろ譚≫魔経界」は、連載となる模様の朝松健≪ぬばたま一休≫シリーズの新作。年を重ねた一休宗純、盲目の旅芸人の美少女、森(しん)、そして一休の親友で既に故人となった蜷川親右衛門の一子で、公儀目付人の蜷川親元―前作でほぼレギュラーの紹介は済んだような形で、今回は漂着した謎の琉球船の怪異に挑む。「異形コレクション」時代からのお馴染みのガジェットも登場。 三者のコミカルなやり取りも楽しい。
間瀬純子「北極星」はロシアを思わせるグロテスクな異世界ファンタジー+クトゥルー神話といったところ。
前回同様、個人的に楽しみしているのがその号のテーマにそったブックガイド。前回は”吸血鬼”、もちろん今回はクトゥルー神話になるわけで、紹介されているものが未読/既読に限らず、新たな読書の愉楽を教えてくれているようで嬉しい。と同時に、未翻訳の作品も紹介されているが、この辺りの邦訳も進んでくれたらな……とも思う。
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