「見た人の怪談集」 [Book - Horror/SF/Mystery]
幕末~戦後期の文豪、作家による実話系怪談(風短編)によるアンソロジー。
◎「見た人の怪談集」著)岡本綺堂他(河出文庫刊)
◆内容紹介(裏表紙から)
これが一番こわい怪談だ、をよりすぐった傑作15篇。綺堂の絶品「停車場の少女」、<お前、寒かろう><こんな晩>と見事に紡がれる八雲の「日本海に沿うて」、芥川の最晩年「妙な話」、気持ちの悪い荷風「井戸の水」、女の手首の怨念、大佛次郎「怪談」、最恐!橘外男「蒲団」…実話!あの田中河内介の…… ◎解説=阿部日奈子
劈頭を飾る綺堂の「停車場の少女」をはじめ、聞き書き(という体裁)の作品が中心となっており、その点ではタイトル通りなんだろう。
以前読んだ「文藝怪談実話」や「私は幽霊を見た 現代怪談実話傑作選」、あるいは6月に記事をUpした「文豪山怪奇譚―山の怪談名作選」に近い路線かとも思ったが、その3冊とは編者が異なる―というか、此方は編集部の選定によるものか―ので、裏表紙にある概要の通り、怪談の"怖さ"をストレートに愉しめる作品が揃っている。
どれもこの辺りの作家による怪談アンソロジーではほぼ入ってくるマスターピースぞろいらしいが(Amazonのレビューによると、その点がマニアにとっては物足りないらしいw)、幸い自分は綺堂と、佐藤春夫「化物屋敷」以外は初読だった。
全15篇。
- 停車場の少女 岡本綺堂
- 日本海に沿うて 小泉八雲(訳=田部隆次)
- 海異記 泉鏡花
- 蛇 森鴎外
- 竈の中の顔 田中貢太郎
- 妙な話 芥川龍之介
- 井戸の水 永井荷風
- 大島怪談 平山蘆江
- 幽霊 正宗白鳥
- 化物屋敷 佐藤春夫
- 蒲団 橘外男
- 怪談 大佛次郎
- 沼のほとり 豊島与志雄
- 異説田中河内介 池田彌三郎
- 沼垂の女 角田喜久雄
印象に残ったのは……
「兄さん寒かろう」「お前寒かろう」とかばい合いながら凍えていく兄弟がただただ悲しい≪鳥取の布団≫が登場する、小泉八雲「日本海に沿うて」。
禁忌を犯した訳でもないのにこの惨たらしい結末。やはり人間には立ち入るべからざる領域があったということか―田中貢太郎「竈の中の顔」。
芥川龍之介「妙な話」は、舞台や流れは綺堂の「停車場の少女」に似通ったところもあるが、オチの捻りは現在のショートショート的。平山蘆江「大島怪談」は、あらすじよりも、後半の辻褄の合わぬ点に気付くと……。
豊島与志雄「沼のほとり」は描写から戦中戦後の様子が伺えるが、印象はどこか英米の古典怪奇小説のようでもある。
そして……橘外男の「蒲団」。
以前から怖いという評判は聞いていたが、読んでみるとやはり怖かった。この作家、猟奇物、エログロな作風を得意としたというだけあって、この不条理なグロさは、確かにな、と。
因みに表紙の写真は、杉か檜あたりの針葉樹の木立を写した何ということもないモノクロ写真なのだろうが、どことはなしに薄気味悪く見えるのは、本の内容を意識するからなのか。
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