「死霊を連れた旅人」 [Book - Horror/SF/Mystery]
「山の霊異記」シリーズなど、山岳怪談の手練れによる書き下ろし実話怪談集。
◎「死霊を連れた旅人」安曇潤平著(だいわ文庫刊)
◆内容紹介(裏表紙から)
山、海、宿……思い出の旅に忍び寄ってくる亡者の影
山岳怪談の第一人者が綴る二十六の恐怖譚
旅とは、未知の世界に行くことである。その先に楽しい思い出ばかりがあるとは限らない。
「深夜の山小屋に入ってきた男の正体」
「雪の中に飛び込んで消えた山仲間」
「海辺の田舎町を静かに練り歩く謎の神輿」
「旅館の鏡が映した有り得ないもの」……。
旅先で出会った怪異の数々が恐怖の世界に誘う。待望のシリーズ六作目!
山及びその他アウトドアアクティビティといったものと全く無縁な(ファッション方面を除くw)自分だが、この人の書く山岳怪談はなぜか気に入って、新刊―但し文庫で―が出るたび購読している。本書を店頭で見かけた際、昨夏に〈山の霊異記〉シリーズの第3弾「幻惑の尾根」が出たばかりでもう新刊……単行本では第4弾(「山の霊異記 霧中の幻影」)が昨年出ていたのは知っていたが、もう文庫化?と早合点してしまったが、どうやら書き下ろしのものらしい。
となるとなぜメディアファクトリーの「幽BOOKS」の"山の霊異記"シリーズでなぜ出なかったんだろう……とちょっと疑問を覚えたが、帯書きにあるように"山岳怪談"という括りから少し出て、旅―海辺、旅先で詣でた寺にまつわる怪異譚、著者が若い頃に味わった恐怖体験等も収録した、ってこともあるのだろう。
怖さの純度も、既刊に比べるとだいぶ薄口のような。マンネリというよりは、意図的に濃厚なものを収録しなかったような気もしないでもない。
とはいえ、山をはじめとした自然の美しさ、厳しさの描写に行数が割かれ、それが話に奥行きを与えている点はこの著者ならではのものであり、他の数多の実話怪談とは一線を画す。
冒頭の「いわくつきの山」は、舞台となった山をイニシャルで書いてはいるが、昭和史に残る大事件の一端なのだから、どこの山かちょっと調べたらすぐわかってしまうだろう。さもありなん、という話。
「三人の縦走者」「足」「避難小屋」「米を研ぐ」といったお馴染みの山岳怪談、友人夫妻の旅先での体験談「こたつ」「化粧鏡」 、信州安曇野の旧家での出来事「天井裏」、釣り旅行で伊豆に出向いた際に目撃した「小さな神輿」、そして著者自身が垣間見た死の淵にまつわる「背負ってくる」「死の匂い」などなど。
「思い出帳」は、超自然的な怪異は起きないし、異常な人間も(直接は)登場しないけれど、語り手が覚えた恐怖に近い不快感は理解できる。掉尾を飾る「死後の世界」は創作だよなぁと思うのだが、この人の山岳怪談をずーっと読んでいると、ひょっとしてあり得るかも……などと考えてしまったり。
この作家の一ファンとしてはまぁまぁ愉しめたのだけれど、どストレートな実話怪談を求める読者には不評だろうなぁ……という気も。
それにしてもこの、児童向け怪談本みたいな陳腐なタイトルは何とかならなかったものか。
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